第5話 女神との共同戦線

 放課後までに登録者数は1万を超えて、13300まで伸びてきた。

 明らかに朝の飛び降り騒動との絡みで何かが起きた。

 不気味だ、不気味過ぎる。


 登録者が増えたり再生回数が伸びたりすると楽しくてハッピーになると思ったけれど、何か怖いんだけど!?

 とりあえず原因の究明が必要だ。


 何もしていなくても、何だか人目が気になってくる。

 分かっている。自意識過剰なのは。

 そもそも、前世では街や国中の期待を背負って、もっと華々しく大魔法を使っていたものだ。

 それと比べれば、こんなこと、たいしたことじゃないはずだ。


 ……と割り切れれば苦労はしない。


 スタジオに行って、室地さんと従者達に調べてもらった。

「どうやら、地元ニュースで警察が『まるで誰かが魔法でもかけたかのように奇跡の風が吹いた』とコメントしていて、それで建謝さんのチャンネルとの関連が広まったようですな」

 そんな曖昧な印象でも登録するの?

 まあ、登録する人もいるか……


 と、女神がやってきた。

「ちょっとぉ! 何でアンタのがこんなに増えてんのよ!?」

「うわわわわ!」

 来るなり、いきなり俺の襟元を掴んで、ガンガン揺すってきた。

「この超絶美人の、アタシのチャンネルが22000なのに、どうして、アンタのやる気のない、2つしか動画のないチャンネルが14000人も登録者がいるのよ!?」

 いきなり逆ギレ!?

 というか、そういう性格が問題なんじゃないか……?

 室地さんと従者さん達も、そろそろ一発ドカーンとお説教してもいいんじゃないかと思う。


「……だから、明上先輩も芸能事務所に入るとか、そういうことしたらもっと増えるんじゃないですか?」

「違うわ! 撮影場所がいつも同じだからマンネリ化しているのよ! 今週末は東北に行って、桜吹雪とともに撮るわよ!」

 あれ、コスプレからもう方針転換?

 その、やることをコロコロ変えるところも問題なんじゃないか?


 と思ったけれど、東北か。

「先輩、先輩……」

「何よ? 招き猫みたいな手の振り方をして」

「僕も連れてってもらえませんかね?」

 この付近は色々マークされていそうだ。

 週末の配信は、これまでとは違う場所でやった方がいいだろう。

 東北の桜吹雪が吹きそうな、ちょっと人里離れたところならちょうど良さそうだ。


 良さそうではあるのだが、女神の反応は案の定というか……

「ハア? 何でアンタまで連れていかないといけないのよ? 来るなら自費で来ればいいでしょ?」

 くぅ~、本当むかつく言い方だ……

 しかし、まあ、旅費を負担してもらおうというのは事実だ。ここは下手に出るしかない。

「先輩、元の世界に帰るためには多くの人のカンパが必要なんすよ?」

 小声で話しかける。さすがに元の世界とかそういう話は、室地さんや従者達もチンプンカンプンだろうから、だ。

「……そんなことは分かっているわよ」

「だったら、登録者の優劣とか心の狭いことを考えずに、共同戦線を張るべきではないですか? 僕のチャンネルは大賢者として広がりそうなんで、コラボとかしたら、本来の意味の女神として見る人も増えてくるんじゃないですか?」

「むむっ……」

「ファンタジアに戻るのが先じゃないですか?」

「それはまあ……」

 女神は考えだした。


 30秒ほど考えて、不承不承頷いた。

「……確かに、お互いにカバーできない範囲がありそうだし、広くカンパを募るためには協力する必要もありそうね。室地には話しておくわ」

「ありがとうございます」

 よし、これでひとまず、土曜日の配信は従者達の協力を得ることができそうだ。

 それなら、色々選択の幅も広がってくるだろう。


「……ところで、北海道に勇者イサムがいるみたいなんですけれど、知っています?」

「そうなの? イサムもこちらの世界に来ていたわけね」

「恐らく、聖女セイコと竜騎士のキシ・タツナも来ているんじゃないかと思います」

 あ、もう1人いるかもしれん。

 勇者イサムとともにミジンコに転生させられたダイマオーも。


 まあ、それは先の話。

 とりあえず今は、土曜日の生配信だ。

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