第4話 飛び降り騒動余波

「おはようございます!」

 教室に飛び込んだ俺は、弁解めいた挨拶をした。

 登校中の飛び降り騒動のアクシデントの後、のんびり考えているうちに登校時間を過ぎそうになっていた。慌ててダッシュで駆けこんだが、階段を上がる途中でチャイムが鳴ってしまっていた。

 すでに朝のホームルームが始まっていることを覚悟したが、全く始まっていないし、何なら隅っこの方でクラスメートが集まっている。

「あれ?」

「おぉ、セイジ。押江先生も遅刻するみたいだぜ」

 有人がニヤニヤしながら言う。俺が慌てふためいて教室に入ってきた様子を見ていたようだ。

「何でも、車が事故ったんだって」

「事故?」

 片や飛び降り騒動があって、教師の車は事故と来たのか。

 この街、本当にどうなっているのかね?


 ということで、朝のホームルームは無しに授業が始まった。

 俺としたら、助かったということにはなるんだろうか。


 2時限目は担任の押江が担当する日本史だが、この時間には間に合った。

「あ~、みんな、すまなかったな。登校中にとんでもないことがあってな」

 と、誰も聞いていないのに、話を始めた。

「ま、いつものことなんだが、大通りの辺りは結構渋滞するんだが、何と近くのビルの屋上から飛び降りた女の子がいたんだ」

 うん?

 もしかして、と戸惑う俺を他所に周りの生徒から「えぇー」とか「マジ?」と声があがる。

「で、何か風に煽られたか何かで、俺の車の上に落ちたんだよ」

「えぇぇっ、本当ですか?」

 マジか?

 俺が落とした古い車は教師の車だったのか?

 でも、道路を走ってはいなかった気がするが。

 どこかに止まっていなかったか?


「昨晩振られたとかで、衝動的に飛び降りたとか言うのだが、中々びっくりしたよ。そういうことで遅刻してしまった。さて、授業をするか」

 と、車が凹んだかもしれないことなどはあまり気にしていないようであった。


 休み時間に入ると、何人かが携帯で調べ始める。

「おっ、飛び降りた時の動画があるぞ」

 有人の声に、何人かが「見せろ」と集まっていく。

 俺も見たくはあったが、周囲の出だしが早すぎてあっという間に人だかりになってしまったので遠巻きに眺めるだけだ。

 しかし、最近は何でもすぐ動画とかにしてしまうよな。

 助かったから良かったものの、本当に墜落していたら、そんな動画どうするつもりだったんだろう?


 動画を見ている連中が「何だこれは?」と声をあげた。

「何なんだ、これ? 急に浮き上がって車まで運ばれているぞ?」

「これ、自殺じゃなくてバンジージャンプか何かんじゃないのか?」

 その声に反応して、俺以外の出遅れた組が関心を持って「見せてくれよ」となる。有人は周りにいた奴を一旦離れさせ、そいつらが自分の携帯で動画を確認する。

 近くで動画を開いた。


 うーん。

 確かに真っ逆さまに落ちている女性が、急にふわーっと浮き上がって、そのまま放物線を抱いて車のボンネットまで流されている。

 誰がどう見ても自然の出来事とは思えない。明らかに物理法則に反する事態が起きている。

 バンジージャンプかもしれない、という感想はあながち間違いじゃないだろう。


 これは……、ちょっとやり過ぎたかもしれないな。

 助けたいと思ってやっただけだが、こんな映像がテレビに出たら、「こんなことはありえない」と専門家達が本格的に調べ始めるかもしれない。

 ますます、家の近くではやりづらくなってきそうだ。


 ちらっと俺のチャンネルの様子を見た。

 コメントが増えている。

「今朝、大通りでは謎の自殺救助があったけれど、あれもこいつ絡み? 最近この周辺、変なことが起きすぎてないか?」

「偶々かもしれないけど、何かタイミングが良すぎて気味が悪いよ」


 やばいなぁ。

 俺と関連があるんじゃないかと疑っている人が出て来ている。

 これで風の魔法を使ったら、ますます疑われることになるかもしれない……


 あれ?

 また登録者が増え始めているぞ……?

 今度は何があったんだ?

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