第3話 登校前のアクシデント

 ちょっとヤバいことになってきた。


 いや、チャンネルの話だ。

 一晩明けて、登録者数は7,500人まで増えてきている。

 既に関心を持たれていたファイアーウォール動画のうえに、生配信宣言をしてしまったことで、ややもすると炎上気味な感じで人が集まってしまい、それによって「急上昇」扱いも受けて、更に人が集まってきた。

 さすがにペースは鈍ってきているが、このままでは土曜日までに五桁に行く可能性だってありそうだ。


 しかも、どちらかというと批判的な連中の方が多い印象だ。

 要は「この元大賢者とかいう奴は、強盗事件に便乗して登録者を増やそうとしているんじゃないか」と思われているようだ。

 実際に二つの事件とも解決したのは俺なのだけれど、視聴者の大半は魔法が本当にあるなんて信じていない。だから、何か別のイカサマを使っていると思っているだろう。イカサマを使って、事件でのし上がろうとしているなんて最低な奴だ、と思われているわけだ。

 生配信のやり方を間違えると、本当に炎上してしまいそうだ。


 一方の女神の方はというと、25,000くらいまで増えた後、22,000まで減っている。

 事件絡みで登録してみたが、イマイチ合わないのでリムーブしていった者も多いようだ。

 それでもトータルで一割増しなんだし、良かったんじゃないかと思うが、絶対に「3千も減ったー!」と喚いているだろうな。


 生配信の場所も方法も、慎重に選ぶ必要がありそうだ。

 ファイアーストームとコンビニ強盗の件で、「元大賢者というのはこのあたりに住んでいる」と思われているだろうから、人目につかない場所でも誰かしらが偵察しているかもしれない。

 方法も、下手なものを燃やせば「放火だ」とか言われかねない。

 配信内で使うものは別の魔法にする必要がありそうだ。


 生配信そのもののやり方は教えてもらって、生配信中でもアバターが固定されるやり方も確認した。

 うっかり本人が映ってしまってはシャレにならないからな。

 ま、アバターで出るとしても、うっかりミスがあるかもしれないから、サングラスにローブにマスク姿は必須だろうが、な。

 そんなことを考えながら登校していると、何だか通りの方が騒々しい。


「何だ?」

 と、通りに人だかりができていて、全員が上の方を向いている。

 つられて、上の方を見ると。

 ビルの屋上に女性がいる。そして下の方にはスピーカーを持って呼びかけている警察がいる。

「馬鹿なことはやめてください! 貴方が飛び降りたら、多くの人が悲しむんですよ」」


「……」

 これはあれか。

 あの女性が飛び降り自殺をしようとしていて、それを呼び止めようとしているということか。

 この街、最近、事件多すぎないか?

 物騒だなぁ。


 どうしたものか。

 スリープで眠らせて警察に回収させようか。ただ、スリープは中距離だから、使うにはちょっと距離が遠いな。あれだけの距離は届かないかもしれない。

 とりあえず近くまで移動しよう。

 人だかりが凄いが。

 と、うわ!

 おもむろに飛び降りた! いきなり飛び降りるか、そこで!?

 下にいる野次馬からも一斉に悲鳴があがる。

 こうなったら、やむをえない。

 ウィンドストームで近くの屋根にでも落とすしかない。


 ウィンドストームで飛び降りた女性を包んで、風に乗せて一回持ち上げる。

 少し離れたところに古い車があるので、そこに落ちるように調整しよう。車は凹むが、それくらいは勘弁してほしい。

「おぉぉぉ? 突風が?」

 野次馬が驚きの声をあげる中、俺はうまいこと車のボンネットに女性を落とした。

 警察官がかけつけて、「大丈夫ですか?」と声をかけている。

 別の1人が救急車を呼んでいるが、「見たところケガはありません。急に突風にあおられて車の上に落ちました。奇跡です!」と報告しているから、無事なんだろう。飛び降りから救ったのだし、軽傷くらいは許してほしいものだ。


「……」

 とりあえず、良いことをしたとは思うが、これでまた変な騒ぎになるかもしれないなぁ。

 ただ、とりあえず生配信は風系魔法にするか。

 何かを落としてもらって、それを風で運んでみる。

 目標地点にきちんと落とせば偶然性も低いと見るだろう。

 よし、それにしよう。

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