第12話 元賢者、動画をアップする

 放課後、昨日のスタジオに駆けつけ、室地さんに動画を見せた。


 当然というべきか、最初に見た時は何が起きたのか分からないという様子だ。

「建謝様、これは一体?」

「あ、そのね。魔法を使ってみました~って感じなんだけど……ダメ?」

 笑ってごまかすような感じで言ってみたが、室地さんは完全に「何が何だかさっぱり分からない」という顔をしている。

 しまった、これは「こんなに残念な人だとは」と認定されてしまうパターンか……?


 と、そこに従者Aが近づいてくる。

「室地さん、あれじゃないですか? お嬢様が昨日話しておられた」


 うん?

 女神が何かしようとしているのか?


 室地さんが「何のことだ?」と聞き返している。

「ほら、ファンタジーのコスプレをするとか言っていたじゃないですか。それで昨日の建謝さんのアバター原案も魔法使いっぽいものにしたんだと思います」


 コスプレ……。

 女神の奴、登録者増やすためにファンタジーのコスプレ始めるのか。

 ということは、エルフの恰好とかビキニアーマーを着たりするのか?


 いずれにしても、従者Aのナイスアシストのおかげで、室地さんも理解したようだ。

「お嬢様のワガママにお付き合いとは、大変ですなぁ」


 ……やっぱりワガママだという認識ではいるんだな。


 従者達が色々編集してくれたので、無事に俺の部分だけアバターになり、炎の壁が吹き上がる動画も完成した。

「しかし、これだけ完璧な炎のギミックを使えるのなら、編集くらいできるのでは?」

 と、従者A。

 いや、ギミックじゃないんだ、編集で作ったわけじゃないんだ。

 とまでは言えないので、「アプリ使う編集は苦手なんですよー」と再び笑ってごまかす。


「これで出したら、何か言われますかね?」

「どうでしょう? まあ、良く出来ていますから、面白がる人はいるかもしれませんな」


 と、従者Aが乗り気になってくれた。


 よし、それならあげてみよう。

 タイトルや説明文は既に決めてある。

 タイトル「異世界からやってきた賢者の魔法実演」で、説明文も「異世界からやってきた賢者が、実は試しに魔法を実演してみました。信じるも信じないも貴方次第」と入れてみる。


 で、早速「ファイアーストームを練習してみた」というタイトルで、動画をアップだ。


 送信を押すと動画がアップされる。

 果たして、どのような反応があるんだろうか?

 楽しみでもあり、不安でもあり。


 しばらく様子を見てみるが、当然のことながら再生回数は0のままだ。

 早めに反応が欲しいところではあるが、ただ、ポンとあげただけで見てもらえるような有名人でもないし、気長に待つしかないか。


 魔法関係の検索をしてくれればよいのだが、日常で「魔法の動画でも見るか」なんていう人はまずいないだろうからな。


 いや、待てよ。

 女神がファンタジー系のコスプレをするのなら、そのついでにリンクとか引いてもらえないかな?

 女神の方は登録者数が2万はいるのだし、何人か見てくれるんじゃないだろうか?

 もっとも、女神が「いいわよ」と言ってくれそうな気は全然しないが。


 動画の生配信というのも面白そうではあるが、この様子だと俺が実演しても0のまま終わるだろう。

 まずは地道に色々な魔法動画をあげていくしかないだろうな。


 あ、そのためには室地さんや従者Aに編集のやり方を教わらないと。

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