第10話 ある意味炎上系動画

「ただいまー」

 家に着いたのは6時半だった。


 調理場の方から「遅かったわねー」と母の声がする。

「クラスの方で色々やっていたから」

「そうなの? 晩御飯まであと少しだから、寝たりするんじゃないわよ」

「はいよ」

 まだ30分あるから、先程の動画を確認してみよう。


 階段で二階に上がり、自分の部屋へ向かうと、隣の部屋から妹の真樹が出てきた。実はまあまあ可愛いのだが、極度の近視でかなり分厚いぐるぐる眼鏡をかけているので分からない。

 そして、メガネも含めてセンスが最低だ。恐らく大半の男子には残念女子に見えてしまうだろう。


「あれ、兄ちゃん、随分遅かったね」

「あぁ、新クラスで色々あってな……」

 適当に言い訳をして、部屋に入り、早速動画を再生した。


 おぉ。

 結構良く撮れている。

 不良?らしい5人がしっかりと映っていて、俺は切れている。

 そこにいきなり炎の壁が上がって、連中の慌てふためく声が聞こえてくる。

 俺が携帯を取りに戻ってきて、指が伸びて終了だ。


 これなら、携帯を取りに戻る俺だけを編集すれば大丈夫そうだ。

 先程、女神の執事をしている室地むろちさんから貰ったSDカードに動画を移して、編集を試してみる。

 色々弄っていて、どうにかうまくいったところで、「兄ちゃん、ご飯だよ」と真樹が呼びかけてきた。


 建謝家は父母と俺、妹の真樹の4人家族だ。

 父は政治家である鐘持利賢かねもち としかたの秘書を務めているため、色々な付き合いがあるようで土日はずっと家にいるのだが、平日の帰りは極端に遅い。

 だから、一応午後7時までは待つが、それまでに戻ってこなければ残りの3人で夕食を食べるというわけだ。


「いっただきまーす」


 食事を食べる間、テレビでニュースがやっている。

 特にたいしたニュースがないようなので、母は俺と妹に「新しいクラスはどうなの?」と聞いてきた。

「いつもと同じだよ。みんな馬鹿ばっかで、私にはついてこられないみたい」

 母に対しては何故だか強気な妹だ。多分典型的な内弁慶なのだろう。

 外での姿は知らないが、このメガネをかけているキャラがクラスカースト上位は考えづらい。恐らく後ろの方で地味に耐えているのではないかと思っている。


「あんたは?」

「俺も特に代わり映えしないかな。来年になると進学クラスに入るか入らないかの違いはあるけど」


 しばらくもぐもぐタイムだ。

 ニュースはスポーツコーナーに入ろうとしていたが、速報が入ったらしい。

『臨時ニュースが入ってきました。先月20日に△■川沿いで起きた強盗致傷事件で、犯人と思われる5人の少年の身柄を差し押さえました』


 おっ?

 これってさっきの俺の……?


「あら、捕まったのね。良かったわ」

 母がテレビに視線を向ける。

『捕まったのは■〇区に住む20歳の会社員と19歳から18歳の少年4人で△■川の河川敷で負傷を負って倒れていたということです。所持品の中から先月20日の事件で奪われた財布が見つかったため、警察は5人を犯人と断定。回復を待って逮捕する方針です。

 5人は訳の分からないことを言うなど精神的に錯乱状態にあるとのことで、警察では仲間割れから焼身自殺を図ろうとしたものの、死にきれなかったものと見て捜査を進めています』

 不良5人が焼身自殺を図ったなんて随分無茶な話だな。

 まあ、「変なガキが魔法を使って炎の壁に閉じ込められた」なんて言っても、信じてもらえないだろうし、「彼らは錯乱している」なんて言われるのも無理はないかもしれない。


 しかし、ニュースにもなってしまったか。

 母も気にしていたとなると、事件の動画をあげると問題になるかな。


 最近のネット検閲は恐ろしいらしいからな。

 事件関係の動画と分かると徹底調査を受けるかもしれない。周辺の様子から「この動画はどこそこで撮られている」って見破られる可能性もありそうだ。

 ある種の炎上系動画になってしまうのだろうか。

 ファイアーウォールだけに……。

 つまらない?

 悪かったな。


 どうだろうなぁ。

 あいつらも顔を隠していたし、俺も加工してあるから素性などはバレないと思うが……


 しばらく考えて、とりあえず一回先送りすることにした。


 載せる、載せないはすぐ決めなくてもいい。明日、女神と室地さんに聞いてみよう。

 今晩はチャンネルの名前や設定を考えることに専念だ。

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