第9話 元賢者、最初の動画を撮り終える?
1時間後。
「うぉぉぉ」
俺は感動の声をあげていた。
執事と従者達が作ってくれたアバターは、賢者というよりは魔法使いの老人といったものだ。
もうちょっとカッコいいのを期待していたのも事実だが、これはこれで悪くない。
白く長い髭は昔の俺だし、気になる頭の部分は魔道士のローブで隠れている。
変に美男美女よりはこのくらいの方が愛嬌もあって良さそうだ。
悪くないというのは前言撤回だ。見れば見るほど味がある。
良い、良い感じだ!
この5人、プロだ。
凄腕だ。
この5人が協力しているのに伸びないって言うんなら、女神がダメなだけだ。
実際に魔法を使っているところを撮影して、俺のところだけこの賢者アバターにしたら、凄く面白そうだ。「これ本当なの? 何かのトリック?」みたいに思う人もいるだろうし、「マジで魔法だ。すげー」と思う人もいるだろう。
結構見てくれる人がいそうな気がするぞ。
更に30分、アバターの入れ方や編集の仕方も教えてもらった。
これなら自分でも何とかなりそうだ。
色々教えてもらって、スタジオを後にした。
既に5時半を回っている。家に帰ると午後6時か。
ウチは7時に晩飯を食うことになっているから、ちょっと実験してみようか。
早速、どこかで試し撮りをしてみたいが、魔法を使うわけだから、人がいないところがいいな。
この辺りでそんなところがあるかというと、河川敷くらいかな。岸の道などを歩く人は多いが、夕方以降、下に降りてくることはないだろう。
と、まず何の魔法を使う?
分かりやすいのは炎魔法だろうが、大きいのを使って火事になったら大事だ。
雷を木に落とす……のも危ないが、といってバフ・デバフといった補助魔法は使っても傍目には分からないからな。
水面の一部を凍らせるかな。
そうするか。
携帯を動画モードにして、セットする。
水面に向かって魔法を使おうとした時。
「お~い、そこのボクちゃん」
ねっとりとした不愉快な口調が背中の方からかけられた。
振り返ると、鼻や目にピアスをつけ、サングラスをつけた明らかに怪しい5人組の男がいる。
「そんなところで何してんだ? 俺達、遊びたいけど金がないんだ。ちょっと貸してくれよ」
……はぁあ?
あ、思い出した。先週の深夜、この近くの川辺で4人組の男に会社員が殴られて財布を奪われたっていう話があったな。
こいつらがそれか。
ったく、人目がないから良いかと思ったが、人目がないとこういう連中もうろついているということか。
「返事しろよ。金を出せって言っているんだ」
「そうそう、5万くらいでいいからさ」
5万も持ってねえよ。1万だってねえよ。
持っていたとしても、500円だって渡したくないけどな。
「……」
俺は無言でパチンと指を鳴らした。
「うわぁ!? 何だ?」
「いきなり火が!? 熱い! アチチチ!」
5人の周囲を取り囲むようにファイアーウォールを出現させ、身動きが取れないようにした。
即席護摩行でもしておけ。
とんだアクシデントだ。
さっさと携帯を回収して、家に帰ろう。もう明日でいいや。
「おっ……?」
と、携帯はこちらを向いていた。
ということは、今のカツアゲされそうになったところとファイアーウォールも撮れていたかな。
後でチェックしよう。
岸まで上ったが、あいつらをどうしたものか。
あんな面々でもさすがに死ぬと寝覚めが悪いし、とりあえず解放しておくか。
ファイアーウォールを解くと、連中は糸が切れたマリオネットのように倒れた。
服があちこち焦げているものの、火傷が特に酷そうな奴はいない。
「あ、すみません。△■川の岸を歩いていますが、河川敷の方にボロボロの服を着た怪しい5人組がいます」
警察にそう通報して、帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます