第8話 元賢者、チャンネルを作る・2
「色々ありがとうございました」
礼を言って帰ろうとした時。
「あれ? アンタ、まだいたの?」
ちょうど女神がスタジオに入ってきた。
「それは……色々聞きたいことがありますし」
「そうなの? こういうのって携帯の前で適当にやっていればいいんじゃないの?」
適当過ぎる。
こんな女神に管理されていたファンタジア大陸が不憫でならない。
女神は俺を無視して、執事に尋ねる。
「昨日の動画はどう?」
「今のところ、9000再生でございます」
9000か。
まあまあ多いように見えるが、女神の顔は明らかに不満そうだ。
「うーん、思ったほど伸びないわねぇ」
よくは分からないが、俺は無関係だから帰るとしよう。
としたら、「ちょっとどこに行くのよ?」と女神に呼び止められる。
「アンタは仮にも元賢者でしょ。考えなさいよ」
「賢者……?」
執事が不思議そうな顔をするが、女神は笑って誤魔化す。
「あぁ、こいつ、モテないから賢者なのよ。ほら、何とかのまま30歳行くと魔法使いになるって言うでしょ? そのパワーアップ版!」
「……はぁ?」
こいつ、よりにもよって何ていうことを言いやがる。
実は世界の女神ではなく、悪口を司る女神だったんじゃないか?
「よく考えなさいよ。この、女神のように美しく、ゴージャスな肢体をもち、運動神経抜群の明上愛美が、どうして登録者2万程度で甘んじなければいけないのか……」
2万程度って、フォローしてくれている人に失礼だろ。
一般人でそこまでフォローがいるだけでも奇跡だぞ。
しかも、努力の大半は執事や従者に押し付けているくせに。
文句ばかり浮かんでくるが、こんなところで喧嘩するつもりもない。
「芸能界に入ればもっと増えるんじゃないですか? ハラジュクとかシブヤとか歩いてスカウトされたら?」
見た目だけならイケるだろ。
中身にしても、芸能界は腹黒くないとダメみたいな話もあるから、むしろ向いていそうだし。
「嫌よ。面倒くさいじゃない」
「……」
ダメだ、こいつ、人として終わっている。
それならもう脱ぐしかないんじゃないか?
水着くらいはなってもいいんじゃないか?
女神時代の方が余程恥ずかしい恰好をしていたわけだし。
なんてことを言えたら苦労はしない。
「全く。アテにならないわね」
「すみませんねぇ。お役に立てなくて」
と、形だけ頭を下げておく俺を無視して、執事&従者衆は考えている。
「申し訳ございません。これといった方法は思い浮かびません」
「……仕方ないわね、何かもうちょっとひねりが必要そうだから、再考しましょ」
なんてことを言っているが、どうせ本人は考えないんだろう。
再考するということで、再び俺の方に矛先が向かってきた。
「で、アンタの方はどうなのよ? 何をやるわけ?」
「いや、まだ特に何も思い浮かばないですけど」
「ハァ? 発想力のない男ねぇ。魔法使いのアバターでも作って、『異世界から来た賢者』設定でやればいいんじゃないの?」
本当、ムカつく言い方だ。
ただ、異世界から来た賢者設定っていうのは面白いかもしれない。
顔を出さなければ何となく魔法を使っても許されそうな気がするな。
女神にしてはナイスアイデアだ。
ただ、問題は。
「ですが、さっき見ましたが、アバター作るのもかなり金がかかりますよ?」
「いいじゃないの。最初は20万30万投資して当然でしょ? アタシだって50万くらい遣ったんだし」
20万とか30万って、気軽に言うな。
俺にはアンタみたいな余裕はねえんだよ。
「まあまあ、再考している間、我々のアプリで彼のアバターを作ればよろしいではありませんか?」
おぉぉ、何て優しい執事なんだ。
見た目も性別も年齢もアレだが、こっちの方が本来の女神なんじゃないか?
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