第6話 元賢者、チャンネルを作る・1
「はぁ? 動画の作り方なんて、ネットで調べれば載っているでしょ」
と、にべもない返事が返ってきた。
ムカつくというより、こいつ、恐らく自分で作ってないんじゃないかという気がしてきた。
考えてみれば、そもそもファンタジアの女神としてもポンコツだったし、今も色々ポンコツな感じがする。恐らく、あの執事なり何なりに任せているだけじゃないだろうか。
いい加減しつこいが、見た目だけは良いから、それだけでも何とかなっていそうだ。
段々怒りを通り越して冷静になってきた。
ここはそのままの反応を示すことにしよう。
「いや、別にいいんですよ。俺はどうしても元の世界に帰りたいとは思っていないんですから。ダメならダメで、魔法も使えるみたいですし、ぼちぼちやっていくだけですから」
これは半分以上本当のことだ。
少なくとも、今の建謝セイジとしての人生を終えてからでも悪くないと思っている。
魔法を使えると思っていない時からそう思っていたくらいだ。使えるのなら、色々便利だし、このまま生きることにも大いに魅力がある。
髪の毛だってあるし。
ただ、女神はそうでないはずだ。今の人生も、大金持ちっぽいし、見た目にも恵まれているから不満はないと思うが、元の世界では女神だったのだ。一刻も早く戻りたいはずだ。
女神の現在の登録者数2万はもちろんすごい数字だが、じゃあ、世界的著名人のように何千万とかそれをも超えた何億という数字になるかというと、それは大変な道だろう。
案の定、女神の方が焦りだす。
「いやいや、何を言ってんのよ? あんた、仮にも大賢者でしょ?」
「大賢者でしたけど、勇者や魔王程世界のために何かってわけでもないですし、ましてや女神様のように世界を守っていたわけでもないですから」
「~~~!」
女神は苛立ちを隠すことなく携帯を取り出した。
「……ジイ? ちょっと動画の撮り方を教えてあげてくれる?」
ジイというのは、恐らく執事のことだろう。
こいつ、全部人任せにしていそうな気がする。
放課後に執事が俺に色々動画配信の指導をしてくれる、ということでひとまず話がついて、女神は自分の教室へと向かっていった。
俺も少し時間を置いて教室へと向かう。一限目ギリギリの時間になった。
「おっ、セイジ。今日は偉くギリギリだったな」
俺が教室に入ったことに気づいた有人が声をかけてくる。
「……あぁ、ちょっと寝坊してな」
「その割にゆっくり入ってくるところがいかにもセイジだよな。もうちょっと早くに来ていれば面白いものが見られたのに」
「面白いもの?」
「昨日転校してきた明上愛美先輩がさ、自分が歩くカーペットに巻き込まれてミイラみたいにグルグル巻きになっていたんだぜ」
そうそう、と他の生徒も乗って来る。特に女子がノリノリだ。
まあ、普通の女子からすると、突然高慢ちきな美人かつスタイル抜群の先輩が現れて、男子生徒の目を奪っていくのは面白くないだろう。そいつがトラブルに遭ったとなると「ざまぁ」と思うはずだ。
俺も実際、「ざまぁ見ろぉ!」と思っていたわけだし。
俺がやったって言ったら、何人かの女子の好感度アップとかあるだろうか。
いや、それはそれで面倒くさいな。やめておこう。
しかし、これだけ同性の反発買うのは女神としてどうなんだろうか。
普通、女神って女子の信仰を集める存在のはずなのになぁ。
そんなこんなで話をしているうちに女神からメッセージが届いた。
『放課後、ここに来なさい』
と指定されたのは、近くの駅にある〇×スタジオいう名前の場所だ。
随分本格的な場所で撮影するんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます