第5話 主導権を握れ
翌朝、目が覚めてからもう一度試してみたが、問題なく使えるようだ。
よし、女神……今は愛美か、に相談しよう。
ただ、どうやって近づけばいいだろうか。
昨日同様に、リムジンで乗り付けてきて、カーペット敷き詰めさせて歩いてくるんだろうな。
あの中に向かっていくのは、玉砕覚悟で告白に向かうかのようだ。
実際、昨日、下校中何人かいたらしいな。
それは恥ずかしいな。
別に告白する気もないわけだし。
見た目とスタイルは最高だが、性格は最悪だからな。
といって休み時間に教室まで行くのも、ほぼ同じく告白に来たと受け取られるだろう。
意外と近づき方が難しいな。
うーん。
とりあえず、チャンネルの方にメッセージを送ってみるか。
女神チャンネルの方に。
『おはようございます明上さん。建謝セイジです。実は自分、魔法が使えたみたいなので、動画作成したいんですが、相談に乗ってもらえないでしょうか?』
よし、こんなもので良いだろう。
とりあえず今日いっぱい返事を待ってみるか。
と思ったら、五分もしないうちに返信が来た。
どれどれ。
『はぁ? 魔法? そんな不思議な力あるはずないでしょ。キモい妄想しているくらいなら、もう少し有意義なこと考えなさいよ』
……何じゃこりゃあ!?
あいつ、本当に元女神なのか!?
「キモい」なんて少年少女に対して一番言ったらいけない言葉だぞ!
許さねぇ! 目にものを見せてやる!
俺は早めに家を出て学校に走った。
いつもより30分早く出て、当然ながら30分早くつく。
飛翔魔法が使えたら便利だが、途中で落ちたらヤバいから人のいないところで、今後要練習だろう。
学校に着くと、屋上に上がって女神の登校を待つ。
あの高慢ちきな元女神、魔法のターゲットにしてやる。
人を傷つける者は、傷つけられる覚悟ももつべきだとか何かのマンガに書いてあったからな。
待つこと30分。
おっ、やってきた。
学校の正門への狭い道路を、どでかいリムジンが乗り付けてくる。
執事の指示の下、従者が出て来てカーペットをサーッと敷き詰め、その上をモデル気取りな歩き方で進んでいる。
歩き終えたカーペットを別の従者が丸めようとしているが。
「精霊よ!」
俺は土の精霊を呼び出し、従者より先にカーペットの端を掴ませ、女神を追わせる。
「あっ! お嬢様!」
執事が叫ぶがもう遅い。
土の精霊が女神に追いついて、カーペットで包み込む。
「えっ? キャーー!?」
カーペットでグルグル巻きにしてやる!
女神ミイラの完成だ!
「ちょっと! 何しているのよ! 早く出しなさいよー!」
女神が執事たちに命令しているが、言われる前から従者達は解放しようとしている。見事な仕事ぶりだな。
嫌がらせ以上の目的はないから、すぐに解放する。
周囲の生徒はぽかーんとした顔で様子を眺めている。
気づいた執事が「見世物ではありませんぞ!」と叫び、我に返った生徒達がそのまま学校に入っていく。
女神はというと、バツが悪そうに立ち上がり、先程までの気取った足取りから一転、スタスタとカーペットのない場所を校舎へと向かっている。一刻も早くこの情けない場所から離れたいということだろう。
やったぜ!
と、思った瞬間、女神が上を向いた。
屋上にいる俺に真っすぐ視線が向いている。
その瞬間、走り出した。
うわ、バレた?
見た瞬間に犯人が俺だと理解したのだろう。
あれだな、直観力は動物並に凄いな。
……あの剣幕は怖いが、まあ、別に俺は何もしていないからな。
少なくともこの地球のルールでは。
3分程度で屋上への階段を駆け上がる音がしてきた。
一瞬後、ガーンという凄い音とともに屋上への扉が開かれ、100年の恋も醒めそうなとんでもない言葉が飛んでくる。
「ぐぉらぁ! ヘボ賢者ぁ!」
「あ、明上先輩、おはようございます」
俺はしらばっくれて挨拶するが、女神は凄い勢いで向かってくる。
「あんた、何してくれんのよ! 私のカッコいい登校を台無しにして!」
「何のことですか?」
「何のこと!? さっき、土の精霊呼び出してカーペットでグルグル巻きにしたでしょうが!」
「ノー、ノー、ノー」
俺は慌てて否定する素振りをする。
「冗談じゃないですよ。そんな魔法なんて使えるはずがないですよ。先輩だって朝、そう言っていたじゃないですか」
「……ぐっ」
グーにした手を止めて、露骨に迷っている。
「それにまあ、ここでは2人だけなんで、先輩が本気で殴ろうとするなら俺も自衛しないといけませんよね」
「……」
手を下ろした。
よっしゃあ!
主導権を奪い取ったぞ!
「動画の作り方分からないんですよ。教えてくださいよ」
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