①元大賢者、チャンネルを作る

第1話 転生元賢者、女神と再会する1

 儂……いや、0歳から転生したから今は俺か。


 俺は建謝たてさセイジという人間として、地球という世界の日本という国で二度目の人生を迎えた。


 16年が経った。


 今日が始業式。

 この世界の高校でも二年生となる。



 転生して以降、大主神の言葉「世界に住む全員からカンパを募る」という意味を考えているが、さっぱり分からない。


 この世界はファンタジアと同じほど広いようだが、人口に至っては何と全世界で80億人という途方もない数がいる。ファンタジアの100倍はいるだろう。

 その多くからカンパを募るなど、どうやってやれば良いのだ?


 俺がカンパを募れる人間など、周囲にいる10人くらいだ。仮にカンパを求めてもパン代くらいしかくれないだろうが。

 どうしろ、と言うのだ?


 まあ、戻れないなら戻れないでいいか。


 大賢者としての尊敬は受けないが、ファンタジアにいた頃は魔王との戦いも含めて、命のやり取りが多すぎた。それと比べると、この日本は安全でのんびりできる。ゲームなるものも中々面白いし。


 何より髪!

 ふさふさと生える黒い髪!

 ファンタジアでは頭頂部も寂しかったし、真っ白だった。

 この髪だけでも、新しい人生になった甲斐があった!

 二度と失うことがないよう、毎日丁寧に手入れをしている。


 戻れないなら戻れないで、この第二の人生を適度に楽しむのも悪くないだろう。



 そんなことを考えながら、俺は高校に向かう。


 特別な高校ではない。自宅から一番近い普通の公立高校……中の上くらいだ。

 ファンタジアと地球とでは色々法則は違うが、ある程度勉強に応用が効く。

 最上位ではないが、そこそこの成績は残せている。


 このまままあまあの大学に入って、そこそこの就職先などを見つけられれば、とりあえず第二の人生としては悪くないだろう。


「おー、セイジ!」

 と、後ろから声をかけられた。

 振り返るといたのは調子の良さそうな小柄な同級生、須賀有人すが ありとだ。

 この世界では中学の時からの同級生、ゲームや勉強を一緒にやる腐れ縁的存在だ。


 カンパを募れば、まあ、パン一個くらいはくれるだろう。

 ……うん、そんな程度だ。逆の立場になっても、俺だってパン一個だ。


 アルバイトしているわけでもない高校生に、それ以上の金は出せない。


「セイジ、知っているか? 今日からいいトコのお嬢様が転校してくるらしいぜ」

「いいトコのお嬢様?」


 コイツは別にもてるわけでもないのに、女子絡みの情報が早い。

 A子が誰と付き合っているとか、B美のスリーサイズはどうだ、とか。

 そんなことをどこで調べてくるのか不思議だが、とにかく知っている。

 コイツが言う以上、いいトコのお嬢様が転校してくるというのは本当なんだろう。


 ……昔なら、最上位魔法を使えば黄色い声援をあげてくれる女子もいたが、さすがに50を超えるとそういうこともなくなった。

 いいトコのお嬢様が来たとしても、正直高嶺の花、俺の新しい人生とは無縁の存在だろう。

 それはコイツだって同じはずである。調べても仕方ないんじゃないの?


「俺の彼女になるとかなら別だけど、そんなことはないだろうし話をしても仕方ねえよ。さっさと登校しようぜ」

「ま~ね~、俺とセイジはもてない下級カーストだからね~」

「いや、下級じゃねえよ。普通ランクだから」

 言い返すが、下級も普通もあまり変わりがないのかもしれない。

 いいトコのお嬢様とは無縁の立ち位置だ。


 いつもの道を通って、いつもの景色、学校の正門が見えてくる。

 と、向こうの方から随分とデカい車が来たぞ。

「うおっ、セイジ! あの車、すごくないか?」

 確かに凄い。

 いわゆるリムジンってやつだ。

 しかもメルセデヌ・ベンシだよ。滅茶高そうなヤツだ。うっかり傷でもつけようものなら、東京湾に沈められるかもしれない。

 そんな車が正門の入り口の前で止まった。


 助手席から、白髪に白い髭、転生する前の俺のような齢の、しかし黒い蝶ネクタイ入りのビシッとしたスーツで決めた老人が降りてきた。

「お嬢様、着きました」


 何ぃ、執事に「お嬢様」だと?

 有人が言っていた「いいトコのお嬢様」なんだろうな。


「ご苦労」

 執事が後部ドアを開くと、声とともにスラッとした足が見えた。

 そのままスッと車から出た途端、男女問わず生徒達から歓声が上がる。


 キラキラと輝く茶色がかった長髪に、紫色の大きな瞳。

 スタイルも顔立ちも、まさに完璧。


 なんなんだ、この美人は?

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