第3話

「君、そこの君」

日曜日の午後、友人と街を歩いていた時の事だった。

壮真の肩を一人の女性が叩いた。

「君、何処か所属事務所は決まっているの?」

「事務所って何ですか?」

壮真は怪訝な顔になった。

「という事は決まってないのね!」

女性はパッと顔を輝かせた。

「私、こう言う者です」

女性が名刺を出して来た。

"月刊、クリーミィ、里田ひかる"

両端から友人達も覗き込む。

「クリーミィって無茶人気の雑誌じゃん!」

クリーミィは女子中高生に大人気のティーン雑誌だった。

「そこの"今月の彼"というコーナーに出て欲しいの。君なら絶対グランプリ間違いなし!」

「すみませんが僕そう言うの興味ないんです」

テンションが高い里田とは逆に、壮真は落ち着いていた。

「何でだよ!壮真。出ればいいじゃん!」

「ほら友達もそう言ってるし」

「すみません」

壮真はそう言ってそのまま行こうとした。だが里田は諦めない。

「じゃあ、一枚だけ。写真一枚だけでいいから!」

「ごめんなさい。写真苦手なんです」

「大丈夫。心配いらない。うちのカメラマンは優秀だから」

「いいじゃん!壮真、撮ってもらえよ」

「な、何、壮真、何か撮れないわけでもあるの?」

友人の一人が怪訝な顔になった。

「スタジオとか行くわけじゃないから。此処で撮るだけだからね」

里田は更に押して来た。

壮真は困ったような顔をしている。

「分かりました。一枚だけですよ」

こうして壮真はプロのカメラマンに写真を撮られたのである。

後にこの1枚が壮真の運命を変える事になるとは誰も気付いていなかった。

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