【短編】夢の通り道 三部作
オオオカ エピ
第1夢【並行世界】
夢というファクターを私は割と信じている。
所詮、夢なんて、起きているときに体験したことを寝ている間に脳が整理している、記憶を整えているだけだろう?
そういう面があることは勿論理解してる。
脳を休める為に、記憶を整理する為に、何となく見ている乱雑な夢に紛れて、明らかに『違う』夢がある。
そうとしか言えない『夢』。
夢の中。
意識と無意識の間でのみ通じる道があるのだと、私は思っている。
その道の先が、未来なのか過去なのか。
あるいは並行世界、違う世界線などと呼ばれる場所なのか。
または、あの世と呼ばれる幽世なのか。
その全てだと思っていると言ったら笑われるだろうか。
私には、夫にも言ったことが無い秘密がある。
私は夢の中で、違う世界線の『自分』に会ったことがあるのだ。
正確には、その瞬間、別の世界線の『自分』と同調していると言うべきだろうか。
現実世界の自分とは違う環境、設定、人間関係を構築している『自分』。
その瞬間、たしかに私はその『自分』で、『自分』としてその状況を把握し、『自分』の言葉で話している。
同じ『自分』に複数回か会ったこともある。
起きた瞬間に解るのだ。あの時の『自分』だと。
「久しぶり!また会えたんだ」と、そんな感慨すら覚える。
少なくとも六人、いや、七人かな。
私は別の『自分』を知っている。
うち二人は異性だった。
一人は私好みの、可愛い彼女を連れていた。
そして一人は亡くなっている。
私はこの『自分』には会ったことは無いが、代わりに友人が観測してくれた。
学生の頃だった。
友人Kは、朝、学校で会うなり私に抱きついてきた。
「良かった!生きてる」
友人Sも妙な顔をしていた。
「朝起きて、お母さんに聞いちゃったよ。『わたしの友達、誰も死んでないよね?』って」
つまり、友人二人が同じ日に私に関する同じ夢を見たということだった。
それは、私の一家が全員、自動車で崖から転落して死亡するという夢。
暫く私が、家族で車に乗る度にドキドキしたのは言うまでも無い。
卒業まで何事もなく過ぎ、私は理解した。
あの日、別の世界線の『自分』が亡くなったのだ。
私は会ったことの無い、あったかも知れない可能性の『自分』の冥福を祈った。
※※※
時は過ぎ、大人になった私が結婚して住み始めた、昭和仕立ての畳部屋だけの社宅生活はあっけなく終わりを告げた。
次の夫の転勤先では、自分達で探した物件を借り入れ社宅という形で契約してくれるという方式だった。
全室フローリングのペット可物件。
一歩、思い描いていた生活に近づいた。
既に冬の乾燥の酷さが懐かしく感じられた。実家にも日帰りで行って帰って来られる距離。
もちろん、現実はままならないこともある。
むしろその方が多いのか。
私たち夫婦には子どもができなかった。
不妊治療も試したがうまくいかない。
当然話し合われる、どこまでという問題。
「体外受精で出来た孫を愛する自信が無い」
義母の一言で夫がやる気をなくした。
悔しかったが、こればかりは夫婦の協力が無ければ成り立たない。
そんな時、久しぶりに件の夢を見た。
例の可愛い彼女を連れた異性の『自分』だった。
少し歳を重ねた彼女の腕の中には、生まれたばかりの赤ちゃんがいた。
ちゃんと親になれた『自分』がそこには居た。
そういう可能性の世界があるならばと、私の諦めもついた。
現実の『自分』とは違う設定の『自分』だなんて、ただの願望が夢という形になって現れただけだろうって?
言いたくば言えばい。
少なくとも、私は自殺願望を抱いたことは無いのだ。
事故死した『自分』に失礼だろう。
脳科学的にはきっと説明のつく現象に過ぎないかも知れない。
でもあれらは別の可能性の『自分』なんだと、私は信じている。
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「私」は拙作「白昼夢」の「私」と同一人物です
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