第17話 幻獣ユニコーンとの戦い


 マラーナ溶岩窟の地下10層――。


 地面から突き出したいくつかの岩に囲まれ、周囲を流れる溶岩によりだるような暑さとなったその場所で、グレッグはユニコーンと対峙していた。


 ――フシュルルルル。


 赤い光景の中でひときわ目立つ純白の、馬のような体躯。

 獰猛な獣とも、荒々しい竜とも違う、それでいて殺気を灯した瞳。

 そして見事なまでに輝く黄金色のツノと。


 雄々しいその外見は、かつてグレッグが親友と語り合った書物に載っていた姿そのものだった。


(ようやく、見つけたぞ……)


 かつて親友と交わした約束を思い返しながら、グレッグはスラリと剣を抜く。


 一方でノノも尻尾をピンと立たせ、目の前に現れた魔物の脅威を察していた。


「ご主人。あの魔物、そんなにおっきくないですけど、すっげー強そうです」

「ああ。ノノも分かるか」

「はいです。なんかこう、びびびっとした圧を感じるです」

「古い書物によれば、ユニコーンは人を喰らうことも多かった危険生物らしいからな。気を引き締めていこう」

「りょーかいです!」


 二人が言葉を交わし、臨戦態勢を取る。


 ――プシャアッ!


 先に仕掛けてきたのはユニコーンの方だった。


 自身の領域に足を踏み入れた敵を射殺すような殺気を宿し、グレッグの方へと向けて駆けてくる。


「くっ――」


 その勢いはグレッグがこれまで見たどんな魔物よりも素早いものだった。


 黄金のツノを対象に向けての突進。


 単純な攻撃ではあったが、その威力は絶大だった。


「ご主人、だいじょーぶです!?」

「あ、ああ。すんでのところで躱せた。しかし、これは凄まじいな」


 ユニコーンの体躯はラーヴァドラゴンなどと比べれば大きくないと言えるだろう。

 実際の馬よりも少し大きいという程度だ。


 しかし、先程繰り出した攻撃は命中こそしなかったものの、グレッグの後ろにあった大岩を穿つ破壊力を見せていた。


「そんなら、こーしてやるです!」


 ノノが叫び、ユニコーンに向けて咆哮波を放つ。


 その威力もまた十分すぎるほどで、岩場となっている地面をガリガリと削りながらユニコーンに向かっていった。


 ――グ、ゴ……。


 ユニコーンはその咆哮波に対し、一瞬ひるむような素振りを見せる。

 が、すぐに頭を振ってその衝撃を払うと、反撃を繰り出してきた。


 ――ブルァッ!


 ユニコーンは剣を振るかのように頭を激しく一振りする。


 すると、黄金のツノが空気を切り裂き、それは風の刃となってノノを襲った。


「わっ、とと!」


 ノノも持ち前の俊敏性でそれを横跳びで躱したのだが、そこへユニコーンによる連続攻撃が来る。


「ノノ――!」


 黄金のツノを槍のように突き出した、突進攻撃。


 体勢を崩したノノに命中するかと思えたが、それを阻んだのはグレッグだった。


 素早くユニコーンとノノの間に割って入ると、ツノの根元部分を脇腹と腕で抱え込むようにして無力化する。


「おおおおお、りゃっ!」


 ――ッ!?


 突進の勢いに押されたグレッグだったが、抱え込んだツノを支点にすることで、思い切りユニコーンを投げ飛ばした。


 後方に吹き飛ばされたユニコーンは、その体を岩に衝突させられる。


 その勢いは凄まじく、ユニコーンが衝突した岩壁部分がガラガラと音を立てて崩れていった。


「ご主人、やったです!」

「いや……」


 通常の魔物であれば、その攻防で決着だっただろう。


 しかし、ユニコーンはゆらりと立ち上がり、再びグレッグたちに殺気立った視線を向けていた。


「げげっ。ぴんぴんしてるです」

「どうやらそう簡単にはいかないようだな。だが――」


 グレッグは黒い広刃剣ブロードソードの切っ先をユニコーンに向け、そして呟く。


「こっちも約束、、があるんでな。何としても討ち取らせてもらうぞ」


 そうして剣を構えたグレッグは、決意のこもった瞳でユニコーンをめつけていた。



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