第16話 【SIDE:???】ある日の約束


 ――なあグレッグ。この幻の魔物とやら、捜しに行ってみねえか?

 ――幻獣ユニコーン? こんな魔物、本当にいるのか?


 ――ああ。この本に載ってるんだから、間違いねえよ。

 ――そんな安直な……。


 ――ばっかお前、こういうのはロマンだろうが。

 ――そういうものか?


 ――そういうもんだよ。いいか? こういうまだ誰も見つけてない魔物を討伐して、その後酒場で一杯やることを想像してみろよ。きっとめちゃくちゃ美味い酒になるぞ。

 ――む。それは確かにそそられるな。


 ――だろ? フッフッフ。ユニコーンを討伐したら、王様とかから表彰されちまったりしてなぁ。

 ――まさか。俺たちみたいな冒険者がそんなことで王族にお目通りなんかできないだろう。


 ――分かんねえぞ? もしかしたらそのユニコーンから集められるのがめちゃくちゃレアな素材で、それを王様が欲しがってたりするかもしれねえじゃねえか。

 ――そんなに都合のいいことは起こらないと思うが……。


 ――ったく。相変わらず真面目だねぇ、グレッグは。

 ――お前がお気楽すぎるんだ。……まあでも、確かに未知の魔物というのは気になるな。


 ――よしっ。そうと決まれば明日からユニコーン捜しにいこうぜ!

 ――といっても手がかりは?


 ――この本によればユニコーンは暑さを好む生物らしい。なら火山とかがある地域に行けばいるんじゃねえかな?

 ――少し早計な気もするが……。しかし、そうだな。地下の、溶岩窟なんかも候補に入るかもな。


 ――お、さすがグレッグ。それはありそうだ。

 ――まずはそれらしい場所を巡って、近くに住んでいる人に話を聞いてみるか。


 ――ふむふむ。情報収集の基本だな。よっしゃ! 燃えてきたぞぉ!

 ――分かったから、酒場であんまりはしゃぐな。さっきから周りの客に注目されてるぞ。


 ――男は注目されてナンボだろ!

 ――俺はどちらかというと静かな暮らしの方が好きだがな……。


 ――やれやれ。そんだけ強いのに、もったいねえぞグレッグ。

 ――俺にとって冒険者という職業はあくまで生計を立てるための手段だからな。まあ、お前に会って少しは変わったと思うが。


 ――おやおや? 妙に嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。酒が回ってきたか?

 ――もうお前には話さん。


 ――おいおい、ねるなって!

 ――拗ねてなんかいない。


 ――しかし、冒険者以外にも色々あると思うがなぁ。第一、今は若いから良いけどよ。いつまでも冒険者やってるわけにもいかねぇんだし。

 ――それはまあ、そうだが。


 ――よし、じゃあ俺が考えといてやるよ! 将来、冒険者を引退した後に、何をしたら面白いかってやつをな!

 ――はぁ……。期待しないでおくよ。


   ***


 ――くっそー。せっかくこんな火山地帯にまで来たってのに、手がかり無しかぁ。

 ――そう気を落とすな。元々漠然とした計画だったんだし。


 ――まだまだ諦めねえけどな。それによグレッグ。他の魔物をやっつけたおかげで素材がたんまりだぜ。

 ――持ち帰りすぎだろ。道具屋でも開く気か、お前は。


 ――道具屋かぁ。いいなそれ。引退したらそういうのもアリかもなぁ。

 ――本気にするとは……。


 ――いや、けっこう悪くないと思うぞ? 魔物を討伐しながら素材を集めてな。それを必要としてる人に売るんだよ。こう、辺境のどこかのどかな地で、畑でも耕しながらさ。夜になったら二人で酒でも飲んでな。

 ――俺も一緒なのか。


 ――そりゃそうだろ?

 ――ははは。そういう生活もアリかもしれないな。


 ――お前、お人好しだから色んなところに顔を出しそうだけど。

 ――褒められてるのか分からないな。


 ――ま、考えておいてくれよ。お前なんて堅物の道具屋店主って感じで、良いセンいってると思うぜ?

 ――俺が店主の想定なのか。


 ――冴えないおっさんって感じだけど、実は超強い元冒険者でした。うん、いいな。それでいこう。

 ――勝手に方向性を決めるなよ……。


   ***


 ――おいグレッグ。この近くに大賢者様ってのが住んでるみたいだぜ?

 ――それがどうかしたか?


 ――大賢者様っていえば色んな薬を開発したり、魔物の解明をしているらしいじゃねえか。それなら、ユニコーンのことも知ってるかもしれないぞ?

 ――お前にしてはいい案だな。


 ――遠回しに馬鹿にされた!?

 ――とはいえ、いきなり訪ねるのも失礼だろう。


 ――そこは勢いってやつさ。案外気さくな人かもしれないぜ?

 ――俺は大賢者って聞くと寡黙かもくで人間嫌いな印象があるんだが。


 ――まあまあ、百聞は一見にしかずってやつさ。行こうぜ。

 ――やれやれ。


   ***


 ――ま、まさか大賢者様があんな若い女性だったとは……。

 ――しかも、かなり個性の強い人だったぞ……。


 ――だけど、俺の言った通り気さくな人だっただろ?

 ――あれは気さくというよりも変人の類だと思うが……。


 ――でもお前、何かエラく気に入られてたな。

 ――ううむ。喜んで良いのか分からんが。


 ――ハハハ。きっとその堅物な感じが逆に斬新だったんだろうぜ。

 ――茶化すなよ……。絶対にあれは好奇の目だったぞ。


 ――しかし、ユニコーンの情報も手に入らず仕舞いか。どうしたもんかなぁ。

 ――地図には載っていないが、この辺りには温泉とやらがあるらしいな。


 ――お、入ってく?

 ――違う、そうじゃない。つまり、溶岩溜まりがあるかもしれないということだ。


 ――おお、ってことは溶岩洞窟なんかもあるかもな?

 ――そうだな。近くの村の人に聞いてみるか。あっちにエミル村というのがあるらしい。


   ***


 ――ここの洞窟、マラーナ溶岩窟って言うんだったか?

 ――ああ、そうらしいな。


 ――溶岩洞窟があったのはいいけどよ、ちょっと魔物が強すぎないか?

 ――さっきのはラーヴァドラゴンという魔物だったな。以前、中級冒険者向けに討伐依頼が出されていたのを覚えている。ちなみに討伐ランクはB級だ。


 ――ううむ。絶対あれはA級以上だった気がするが。

 ――まあとにかく、もう少し先へ進んでみよう。


 ――そうだな。ユニコーンもまだ見つけられていないしな。

 ――ここが入口から数えて地下10層か。


 ――げっ。道が溶岩で塞がれてやがる。

 ――これは……。先に進むのは無理だな。


 ――ちぇっ。あっちには道が見えてるのになぁ。

 ――仕方ないだろう。一旦入口まで戻るとしよう。


 ――お、おい待てグレッグ! 今、奥の方から何か聞こえなかったか?

 ――確かに、馬の鳴き声のようなものが聞こえたな。


 ――けどよ、普通の馬がこんな所にいるか?

 ――普通は、あり得ないだろうな。


 ――もしかして、ユニコーンの鳴き声だったりして。

 ――そんなことは……あるかもしれないな。


 ――だろ? あの本にも、ユニコーンの鳴き声は馬に近いとか書いてあったし。

 ――これは、捜してみる価値があるだろうな。別の場所からならあの奥に向かう手段があるかもしれないし。


 ――よっしゃ、ここまで来たら絶対に見つけてやろうぜ、グレッグ!

 ――ハハハ。そうだな。美味い酒にありつきたいしな。


 ――男二人の約束だからな!

 ――ああ。俺とお前の、約束だ。


 ……。


 …………。


   ◆◆◆


「ご主人、どーしたです?」

「……ああ」


 隣を歩くノノの言葉で、グレッグは現実に引き戻される。


 昔の、親友といた頃のことを思い返していたためか、少し感傷的になっていたようだ。


 自然と笑みが漏れ、どこか懐かしさを感じていた。


「そうだな。ちょっと暑さでぼーっとしてたのかもな」

「分かるです。あんまし長いこといると本当に溶けちゃいそーです」


 ノノの可愛らしい言い回しに苦笑しながら、グレッグは先へと進む。


(あの後、危険な大型の魔物が出没したという報せが俺たち冒険者に入って、俺たちはその戦いに参加した。そこで、アイツは……)


 結局、ユニコーンを見つけて討伐するという目標は悲願になってしまっていたなと、グレッグは自嘲気味に笑う。


 けれど、今なら。

 今なら、過去に親友と交わした約束の一つが果たせるかもしれない。


 そういう想いを胸の内に秘め、グレッグは決意を新たにする。


 そして――。


「いた……」


 マラーナ溶岩窟10層の奥地にて、グレッグはずっと追い求めていた魔物を発見したのだった。




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