第15話 幻獣ユニコーンの住処へ


「着いた。この階層だ」


 マラーナの溶岩窟、地下10層――。


 赤々とした溶岩が流れるその場所に、グレッグはノノとフラムを連れてやって来ていた。


「うへぇ……。とけちゃいそーです」

「ノノ君の言う通り、なかなか過酷な場所だねぇ。まるで炉の中に入れられているかのようだ」


 見た目通りと言うべきか。

 マラーナ溶岩窟の深層は、体の水分が蒸発してしまうのではないかと感じさせられる場所だった。


 おまけに今グレッグたちが立っている岩場の脇は溶岩で満たされ、踏み外したらまず助からないだろうという状況だ。


「落っこちたら黒焦げになっちゃいそーです」

「ノノ、あんまりしがみつかないでくれ。余計暑い……」

「と言われても、これはしかたねーです」


 いつもは明るく前向きなノノも、今ばかりは獣耳を力無く垂らしている。


 一方でフラムが「ならば私に抱きついてきたまえ、ノノ君!」なんて言うものだから、グレッグは緊張感がないなと溜息を漏らしていた。


「さてグレッグ君。この先だね?」

「はい。あそこに道が続いているようなんですが、さすがにこの溶岩じゃ渡れないな、と」


 ある所まで進むと、道が途絶えていた。


 正確にはグレッグたちの視線の先には道があるのだが、その途中が溶岩につかかっている。


 そこにあるのは、さながら溶岩の川であり、とてもではないが対岸に渡ることなどできそうにない。


「フフフ。それじゃあ、やっちゃおうかな」


 しかし、フラムはその光景を見ても平然としていた。

 というより、むしろ活き活きとしていた。


 フラムは先頭に立つと、ブツブツと何事かを念じ始める。


「大気を漂う精霊たちよ。大賢者フラム・リレーヌの名のもとに告げる。我が声に耳を傾けたのなら、その身に宿し奇蹟の力を顕現けんげんさせたまえ。繰り返し告げる。精霊たちよ――」


 フラムは目を閉じ、溶岩の川に手を向けながら言葉を続けた。


 風もないはずなのにフラムの纏う黒いローブがはためき、金の髪がざわりと揺らめく。


 それは普段の彼女からは想像もできない神秘的な姿で、おかすことのできない領域がそこに展開されているかのようだった。


 そして――。


「こ、これは……」

「おおー! 道ができたです!」


 発生した現象にグレッグとノノが揃って目を見開く。


 目の前にあった溶岩は流れを止め、そこには蒼くきらめく足場――すなわち氷の道ができていた。


「魔法……」


 溶岩が凍結するという異様な現象に、グレッグは思わず呟く。


 通常の原理では起こり得ない事象を発生させる奇蹟。

 世界で数人しか持たないと言われている異能の力。


 それが今、フラムが使用した「魔法」と呼ばれるものだ。


「すっげーです、大賢者さま! おかしな人だと思ってたけど、別の意味でおかしな人だったです!」

「ノノ君、それは褒め言葉なのかな……」


 せっかく凄い力を披露したのに、ノノからは微妙な反応をいただくことになり、フラムは少しがっかり気味だ。


 何にせよ驚いてくれているしそれでいいかと、フラムは気を取り直してグレッグの方へと視線を向けた。


「さあ、これで道はできたよ。とはいえ、さっきも説明した通り、私がここから動くとこの魔法は解除されてしまう。だから、ユニコーンの討伐は君たちに任せるとしよう」

「フラム様、ありがとうございます。いい報告ができるよう頑張ります」

「ハッハッハ。ユニコーンなんて希少な魔物、そうそうお目にかかれる機会はないだろうからねぇ。書物の中でもその強さは明らかになっていない魔物だが、まあ君なら心配はいらないだろう」

「では、行ってきます」


 そうしてグレッグはノノと一緒に先を目指そうとする。


「あ、グレッグ君――」


 と、氷の道を渡ろうとしたところでフラムから声がかかった。


 フラムは魔法を発動した姿勢のまま、グレッグにニヤリと笑みを向けている。


「お土産、頼んだよ♪」


 爽やかにウインクしてきたフラムに苦笑し、グレッグは手を挙げながら応じることにした。


「はい。ちゃんと素材のお裾分けをしてみせますよ」


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