第11話 空の旅と、王族の問題


「よし、それじゃアレをび出すとしよう」


 グレッグの道具屋から外に出て。


 フラムは手をかざして何かを唱え始めた。


「おおー。何もないところから何か出てきたです」


 フラムが唱え終わると、一本の「ほうき」が出現する。


 それは不思議なことに緑の気流のようなものをまとい、プカプカと宙に浮いていた。


「フラム様、これは魔導具の一種ですか?」

「そうだよグレッグ君。普段移動に使うのはゴーレムの方なんだが、王都に行くならコイツで飛んでいくのが一番早いからね。……ちょっと疲れるけど」

「飛んでいくって……。それはまた、凄いですね」

「ハッハッハ。私は大賢者だからね」


 フラムはそう言ってグレッグににんまりと微笑みかける。


 グレッグが進めている素材収集の依頼。

 その真意を聞くため、依頼主であるラインズ王に直接会いに行く。


 フラムの唐突な提案だったが、結局グレッグはその目的を果たすため王都へと向かうことになっていた。


(確かに直接聞いた方が早いかもしれないが、いきなりすぎる……)


 グレッグはそんなことを考えたが、フラムにも何か考えがあるのだろう。


「さあさあ、乗った乗った」と促され、フラムの後ろにまたがるグレッグ。


 すると、グレッグの足は地から離れ、体全体がふわりと浮く。


 どうやら箒自体が周囲に特殊な力場を発生させているらしく、不思議な浮遊感があった。


「おー。ご主人と大賢者さま、浮いてるです」

「何だか、妙な感覚だな」

「すまないねぇノノ君。ノノ君も連れて行ってやりたいところだが、この魔導具はまだ改良中でね。ノノ君くらい小柄なら大丈夫かとも思うが、あんまり大勢乗ると途中で墜落しかねないんだよ」

「……ノノ、ていちょーにお断りするです」


 フラムから恐ろしいことを言われたノノは、獣耳を垂らして顔を引きつらせる。


「悪いなノノ。夜には戻ってこれると思うから、少しだけ留守番していてくれ」

「がってんしょーちです。あ、でも何かおみやげがあるとうれしーです」

「ハハハ。了解」

「よし。グレッグ君、しっかりと掴まっていたまえよ。それじゃ、出発だ!」


 フラムが掛け声を上げると、箒は空高くに舞い上がった。


 ぐん、と地上から離れ、グレッグの道具屋もノノも小さくなっていく。


 そうして可愛らしく手を振るノノに見送られながら、グレッグとフラムは空飛ぶ箒で王都バイデルを目指すことになった。


   ***


「ハハハハッ! どうだいグレッグ君! 空の旅もなかなか良いものだろう!」

「ぐぅ……! これは本当に驚き……というか、しっかり掴まっていないと振り落とされそうです」


 箒に跨り、猛スピードで飛行する二人。


 グレッグはその迫力に圧倒され、一方でフラムはかなりご機嫌だった。


「ほら、見たまえよグレッグ君! 夕陽があんなに綺麗に輝いているぞ! 男女二人で夕暮れの空をランデブーだなんて、なんともロマンチックじゃないか!」

「こっちはそれどころじゃないんですが!」


 馬車などとは比べ物にならない、あまりのスピードに叫び声を上げるグレッグ。


 これなら確かに一時間やそこらで王都に着いてしまうだろう。

 それは良いのだが、初めて乗ったグレッグとしてはもう少しスピードを抑えてほしいところだった。


「いやぁ、やはり空はいいねぇ。今度ノノ君も乗せてあげよう」

「それは喜びそうですね。もし良ければお願いできればと」

「そうだね。何ならそのままお持ち帰りできそうだし」

「……フラム様、本当にブレませんね」


 フラムに付き合いながら、グレッグは流れる景色を眺める。


 森を超え、山岳地帯を超え、間もなく夕陽も沈もうかという時間になり。


 グレッグはフラムにあることを尋ねようとした。


「あの、フラム様」

「なんだいグレッグ君。ハッ……! まさか二人きりなのを良いことに愛の告白でもしようと――」

「違います」

「ぶーぶー。ノリが悪いなぁ」


 相変わらず賢者らしくない感じの軽口を叩くフラム。

 グレッグはそれには構わず、言葉を続けることにする。


「俺、ラインズ王って話にしか聞いたことはないんですが、どんな方なんです?」

「んー。何ていうか、一言で言えば質実剛健な方だねぇ。それでいて人と関わるのに壁を作らない性格というか」

「フラム様は以前からお付き合いがあるんですよね?」

「まあそうだね。とても良くしてもらっているよ」

「なるほど。確かにフラム様とお付き合いをしている時点で度量の広そうな方ですね」

「おや? 今かなり失礼なことを言われた気がするんだが。スピード上げちゃおうかな」

「……失言でした」


 主導権を握られている状況で下手なことを言うものじゃないなと、グレッグは降参の意を表する。

 フラムは分かればよろしいと言って、それから、少しだけ真剣な口調になって話し始めた。


「今回の依頼は確かにラインズ王が出されたものだ。しかし、実際にはラインズ王のご家族に関わることでね」

「そうなんですか?」

「うむ。口で説明しても中々伝わりにくいというか、信じてもらえなさそうな状況なので、こうして君を直接王都に連れて行こうというわけさ」

「ふむ。何だか厄介事みたいですね」

「厄介というか、そんなことあるのかという話でね……。まあ、見た方が早いよ、、、、、、、


 フラムがやれやれという表情を浮かべる。

 どうやら思わせぶりに言っているというわけでもなく、本当に複雑な事情があるようだ。


(国王様のご家族に関わる問題……。ってことは、王族の誰かだよな。一体誰が……)


 グレッグがいまいち実感の湧かない考えを巡らせる中、二人を乗せた箒は夕空を切り裂くようにして進んでいった。


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