第7話 出没しないはずの魔物
「さて、とりあえず国王様の依頼書にあった素材も大体集まったわけだが」
「集まったってより『元々あった』が正しーです、ご主人。レア素材ばっかりだったのに、ほとんどお店にあるとかちょっと反則な気がしますです」
「反則って言われてもな……」
グレッグとノノは、カウンターの上に置かれた素材の数々を眺めながらそんな会話を交わす。
大賢者フラムから受けた……というより、押し付けられた高レア素材の収集依頼だが、依頼書に記された大半はグレッグがこれまで集めた素材だった。
普通なら年単位の時間がかかってもおかしくなさそうな素材だったが、着手早々にして残りあと少しという状況だ。
「残りは3種か。見た感じ難しそうなものもあるし、どれから手を付けるかな」
「ムフフ。この分なら国王さまの依頼もすぐに終わっちゃいそーです。そしたら、王宮に迎えられて、ごちそうとかいっぱい振る舞ってもらえるかもしれねーです」
「依頼を達成=美味しい食事にありつける」と解釈したノノが、蕩けた表情を浮かべている。
相変わらず食欲全開な様子で可愛らしいのだが、よだれが垂れそうになっていたのでグレッグが拭いてやることになった。
「とはいえ、さっきも言った通り一筋縄じゃいかないものもあるからな。この『キングトータスの牙』なんて海辺の地域にでもいかないと手に入る代物じゃ――」
――カラン、と。
道具屋の扉に付けられている鈴の音で、グレッグは言葉を遮られる。
どうやら客がやって来たようだ。
「なんかすげー久々にお客さんが来た気がするです」
「む。あの人は……」
そこに現れたのは、
いつぞやグレッグの道具屋を訪れるなり見下してきた、そして、その後意気揚々とラーヴァドラゴンに戦いを挑み、窮地に陥っていたところをグレッグに助けられた、冒険者の男である。
「グレッグのアニキ! ご無沙汰しとりました!」
「ああ、ドレンさん。いらっしゃいませ」
ドレンと呼ばれた男は三段くらいに積んだ木箱を抱えており、巨漢を揺らしながら店内に入ってくる。
ドスドスと豪快な音を立てながらだったので、グレッグとしては道具屋の床板が抜けないか心配だった。
「いやぁ、あまり顔を出せずにすまねえ! これ、またアニキにお礼を持ってきたぜ!」
ドレンはそう言ってカウンター上の空きスペースに木箱を置く。
その中には新鮮そうな野菜がぎっしりと詰まっていた。
「そんなに気を遣わなくても。それに、お礼ならあの後散々言ってもらいましたし」
「そういうわけにはいかねぇ! アニキはオレの命の恩人だ。こんなんじゃまだまだ足りねえくらいだ」
まだまだ持ってくる気かと、グレッグはドレンの勢いに押されて引きつった笑いを浮かべる。
実はこのドレンという男、あの一件があってからたびたびグレッグの道具屋を訪れているのだ。
グレッグに救ってもらったことで心を入れ替えたのか、グレッグの強さに
今ではグレッグに対する態度も見事なまでにひっくり返り、こうしてあの時のお礼だと言っては色んな品を納めに来ているのである。
「ではありがたく頂戴するとして。しかし、今回のはまたすごい量の野菜ですね」
「実は、実家が農家をやっとりまして。前にアニキが家庭菜園なんかもやってみたいと言ってたんで、苗とかも入れてみやした!」
「おお、ありがとうございます。それは楽しみですね」
「……」
何やら和やかに話している二人であるが、ノノからしてみれば不思議でしょうがない。
初対面の時はかなり失礼な態度だったらしいが、今のドレンはまるで舎弟のような口調になっているし、グレッグもグレッグで過去のことはあまり気にしていないようだ。
まあ、本人たちがそれでいいならツッコむことではないかと、ノノは口を挟まないでおいた。
何より、食べ物が増えるのは素晴らしいことなのだ。
「ん? グレッグのアニキ、これは何ですかい?」
と――。
カウンターの上に置いてあった素材や依頼書に気づいたドレンが声を上げる。
「ああ、それはとある人からの素材収集の依頼でして。今こうして集めているところなんです」
「ほぅ。それはそれは大変なことで……って、コレ! 国王様からの依頼じゃねえですか!」
ドレンが驚くのも無理はない。
一国の王が出した依頼なんてそうそうお目にかかれるものじゃないからだ。
それを知人が請け負っているというのも、ドレンにとっては衝撃的なことだった。
「す、すげぇ。集めるものもレアな素材ばっかりだ」
「はは……。実はとある人から引き継いだものでして。まあ、店内にあるもので大体は集まってるんですが」
「なんと! 既にこんな貴重なモンをストックしてたとは。こんなのオレが集めようとしたら一年以上はかかっちまうのに。さすがアニキだぜ……」
依頼書に記されたほとんどにチェックが付いていたのを見て、ドレンは深々と頷く。
やっぱりオレの人を見る目は間違っちゃいなかった、などと呟きながら。
「……」
それを聞いたノノはツッコむべきか迷ったが、面倒だったのでやめておいた。
「アニキ、このチェックが付いていないのはこれから集める素材ってことなんです?」
「ですね。この近くじゃ中々手に入らないものもありますから、どうしようかと思っていますが」
「フム……」
依頼書をまじまじと見つめるドレン。
そしてドレンは「キングトータスの牙」という素材にチェックが付いていないのを見て、グレッグにニヤリと笑みを向ける。
「それならアニキ、いい情報があるぜ。ここに来るまでの街道で何やら騒ぎになってたから聞いてみたんだがよ。どうやら、近くにキングトータスが現れたらしいんだ」
「え? キングトータスが?」
グレッグが思わずといった感じで聞き返す。
キングトータスというのは一言で表せば、巨大な亀の魔物である。
普通は海辺に出没する魔物であり、こんな陸地に現れることはないはずなのだが……。
何故この近くに出現したのかは分からないが、これはキングトータスの牙を収集する必要があるグレッグにとって
「ご主人ご主人。これはラッキーです。ゲットしにいくしかねーですよ」
「そうだな。ひと狩り行くとするか」
「うっし! そうと決まれば案内しやすぜ、アニキ!」
善は急げだなと、グレッグは早速キングトータスが出現したという街道に向けて出発することに決める。
(しかし、キングトータスか。確か、甲羅の部分は硬すぎて剣が通らないって聞いたことがあるな……。となれば、アレを持っていくか)
以前聞いた情報を思い出し、カウンター下にある引き出しからあるものを引っ張り出すグレッグ。
それは一本の瓶で、中には赤く燃えるような色をしたキノコが入っていた。
「ご主人、魔物と戦うのにキノコなんか持ってくです? あ、途中でおべんとーにするですかね?」
「いや、これは食べたらとんでもないことになるから。キングトータスと戦うならあった方が良いかと思ってな」
「ふむ? 何だかよくわかんねーですが、食えねーのは残念です」
「ガッハッハ! きっとグレッグさんが持ち出すんだから、すげぇアイテムに違いねえぜ!」
グレッグは赤いキノコが入った瓶を腰に付けたポーチに納め、魔物狩猟用に使っているいつもの黒い
そうして一行は、街道に現れたというキングトータスの討伐に繰り出すことになった。
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