第6話 収集済みの素材
「それじゃグレッグ君、今回も期待しているよ」
「分かりましたよ。フラム様には恩もありますし、何とか達成してみせます」
フラムがグレッグの道具屋を訪れた翌日。
自分の
まだ朝も早い時間で、一緒に見送りに来ていたノノはむにゃむにゃと眠そうな目を擦っている。
「んー。それにしても、久々の睡眠というのは逆に疲れるものだねぇ。次はずっと起きていられる薬でも開発しようかな。うん、そうしよう」
軒先まで出て太陽の光を浴びたフラムが、伸びをしながらそんなことを言う。
もしもそういう薬が開発されたら、人間という種族の生活を丸ごと変えてしまいそうである。
「それはとんでもない野望をお持ちで。フラム様だと本当に開発してしまいそうで怖いですよ」
「フフン。もしできたらグレッグ君の道具屋に
「……目がキマってる人が大勢来そうで怖いので遠慮しておきます」
「おや、それは残念だねぇ」
軽口を叩きながら挨拶を交わし、フラムは道具屋から少し離れた位置に立つ。
「ではまたな、グレッグ君。折を見て連絡するから、素材収集の方はよろしく頼んだよ。まあ、ノノ君が可愛すぎるし、またすぐ会いに来ると思うけどね」
「はいはい。あまり徹夜はしないでくださいね」
「ノノ君もまたな! 次に来る時は君をウチの子にしてみせるからな!」
「ノノ、それはお断りするです。なんか怪しい薬漬けにされそうでこえーです」
いつもの調子で挨拶を交わしたフラムは、地面にそっと手をつく。
すると、地面からボコボコと土の塊がせり上がり、巨大な人型へと変化した。
フラムがよく用いている、ゴーレムという泥人形である。
グレッグはその存在を見たことがあったが、隣にいるノノは興味津々の様子で「おおー、すげーです。かっけーです」と歓声を上げていた。
「フハハハハハッ! また会おう!」
フラムはまるで悪役のような笑い声を響かせ、ゴーレムの肩に乗りながら去っていく。
(やれやれ。ゴーレムを移動手段にするとは、相変わらず恐ろしい人だ)
そうして、グレッグの一日は騒々しさと共に始まりを告げるのだった。
***
「さて、これをどうするかだな」
道具屋の店内に戻ったグレッグは、フラムから預かった書状をカウンターの上に広げていた。
身長が足りないノノはそのままだと見えないので、座っているグレッグの膝の上にちょこんと乗っかる格好になっている。
「よーするに素材を集めてほしいってことですか。これって国王さまが大賢者さまに依頼したものなんです?」
「らしい。第三者の俺が受けて良いのかとも思ったが、フラム様曰く事前に許可はもらってあるとか何とか」
「なんか抜かりねーですね」
本当にその通りだなと思い溜息をつくグレッグ。
そこに書いてあるのは一言で言ってレアな素材ばかりだ。
冒険者協会が定める収集難易度でも特に難しいとされるA級、中にはその上のS級に指定されているものまであった。
通常、確かな実力と知見を備えた冒険者が各地を巡り、それでも手に入れられるかどうかという素材の数々である。
フラムの言葉通り、単に面倒だからこの依頼をグレッグに回したのか、それとも他に何か理由があるのかは分からないが、それは今考えても仕方ないなとグレッグは書状に視線を戻す。
「何やらいっぱい書いてありますが、何に使うですかねぇ?」
「さてな。フラム様は知っているみたいだったけど何故か教えてくれなかったし。しかし、賢王で知られるラインズ王のことだ。きっと何か深い理由があるんだろう」
「確か魔物がたくさんだったこの国を開拓して、人が住める土地にした。って人でしたっけ?」
「そうそう。ま、文字通りの偉人って感じだな」
そんな人物が何故こんなレアな素材を必要としているのか。
グレッグもそこに興味がないといえば嘘だったが、とりあえずは依頼者の希望に沿おうと決める。
「むー。でもこんなにたくさんのレア素材、集めるだけでもめっちゃ大変そーです。20種類近くはあるですよ、これ」
「ああ、数はそんなに問題じゃないさ」
「ん? どーいうことです、ご主人?」
グレッグはノノを膝の上から下ろし、椅子から立ち上がる。
そして、書状を片手に店内をうろうろと巡り始めた。
「ええと、コカトリスの羽根に、虹色鉱石の欠片。ゲルム鍾乳洞の奥地で採れる雫と、ブラックロータスの花弁――」
グレッグは何やら呪文のようなものを唱えながら、店に陳列してある商品や、隠し棚にしまってあった物品をいくつか手に取っていく。
「よっ、と」
グレッグは手に取った品々をカウンターの上に置いていき、その一つ一つを確認し始めた。
「ご主人、これってまさか……」
「ああ、その書状に書いてあったいくつかの素材さ。いやぁ、こういう時に道具屋って便利だよな。売れないと思って奥にしまってたやつもあったから、ちょうど良かったよ」
「すげーです……。もう半分以上集まっちゃったです……」
集めるのに困難を極めるかと思われた、高レア素材の数々。
何とそのほとんどは、グレッグが過去に収集済みの代物だった。
***
一方その頃、グレッグの道具店の外にて。
「クックック……」
笑みを漏らす一人の男がいた。
男は何かを抱え、ドスドスとグレッグの道具屋に近づいていく。
それは何段かに重なった木箱で、結構な量である。
「さあ、驚いてもらうとするか」
そう言って男は、ニヤリと口の端を上げるのだった――。
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