第5話

講義は大丈夫だった。

黒板一杯に文字が躍っているし、手話を見ながらノートを取る事も出来た。

問題は実習か……

だけどこの学校は2年で料理と製菓を両方学ぶため、実習7割、理論3割である。

心は実習の前には教科書を覚えるぐらいに読み込んだ。

手順も頭に叩き込む。

そうして実技でパンを作った。

柔らかくてフカフカだ。

自分で作ったパンは本当に美味しい。

4人で製菓の先生の指示を見ながら、お互いの手技を見ながら作ったのである。

実習の後は全員で掃除だ。

調理台の上から床までピカピカに磨く。

それで実習終了だ。


普通科の生徒達は遊びに行く余裕があるが、聾科の生徒達はヘトヘトである。

心も例外ではない。

聴覚障害を持つ人にとって一般の人と接する事はとても疲れる事なのだ。

常に気を張って聞き取らなければならない。

生徒達は一生懸命に唇を読もうとする。手話が得意な人ばかりではない。

心は読話が出来る。9歳の時に聴覚を失ったため、それまでの記憶で分かる。

但しそれはゆっくり話してもらえればだ。

心は全く聞こえないため、他の生徒のように補聴器は役に立たない。そして全然聞こえないのは20人中、心だけだった。

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