第55話 ユイナの才能

 ルクシアをなだめた後、俺は二人に向かって説明を始めた。

 これからは基本的に実力を隠すつもりがないということ。

 理由としては、既に多くの人に知られている可能性が高いからだ。


「ユイナには少し話したけど、リリアナとは以前に少し関わりがあって。その時に俺の実力は知られてたんだ」


「そっか。だからリリアナさんがやってきたこのタイミングで方針を変えようと思ったんだね」


 ユイナが理解したように頷く。


「ま、そういうことだ。昨日のアルバート戦みたいなことが今後起こらないとも限らないし、誤魔化し切るのも限界があるからな」


 俺がそう言い切った直後、ルクシアが椅子から跳ね上がった。


「あっ、じゃあじゃあ、せっかくだし聞いてもいい? アレンがこないだ魔法にヒールを使って戦ってたのってどういうアレだったの?」


聖錬せいれんっていう、回復魔法によって魔法の火力を本職水準まで高める技術だ。何でも、東方の国には少し使い手がいるらしい」


「お~、初めて聞いた! ……そんなの知ってるなんてすごく物知りなんだね、アレン!」


「……そうだな」


 キラキラと目を輝かせて称賛するルクシアに、俺は少し気まずさを感じながら返事をする。

 さすがにこの状況で『昨日リオンから聞いたばかりで……』とは言えないからだ。


 そんな中、ふとユイナが複雑そうな表情を浮かべているのが目に入った。


「ヒールにそんな使い方があるんだ……でも、使いこなせるのはアレンくんの努力あってこそだよね。それに対して私は全然だったし……昨日の交流戦だって……」


 Aクラス相手に負けたことを思い出しているのだろう。

 俺はそんなユイナを慰めるように告げる。


「善戦してたじゃないか。少なくとも他のEクラスの奴らよりも」


「そ、それは一応、アレンくんがワーライガーを倒した時に、私にも少しだけ経験値が入ってレベルが上がったおかげだから……でも、勝てなかった。やっぱり【バッファー】だけじゃ限度があるのかな。グレイくんみたいに、もう一つジョブでもない限り……」


「……………」


 どうやら、ただ敗北したことに対してだけではなく、自分と同じジョブを持ちながら圧倒的な才能を持つ存在グレイを見て、何か思うところがあったようだ。


 そんなユイナの様子を見て、俺は思い出す。

 『ダンアカ』において、ユイナはアレンとは別の意味で不遇なキャラだった。

 ただでさえ不遇な支援職に加え、その上位互換として主人公が存在するからだ。


 しかし――いや、だからこそだろう。

 モブクラスメイトの中でも人気の高いユイナが不遇な立場に置かれたとなって、紳士諸君ゲームプレイヤーは躍起になった。

 なんとかしてユイナを活躍させる方法がないか探し始めたのだ。


 ……えっ、アレンはって?

 男キャラだから特になかったよ。


 と、そんな悲しい過去はさておき。

 多くのプレイヤーたちの検証によって、ユイナにはある才能と、それを活かすための方法があることが明らかになった。

 だからこそ俺は、確信をもってユイナの不安の言葉を否定する。


「そんなことはないぞ」


「え?」


「ユイナには、ユイナにしかできない戦い方があるはずだ。それこそ、俺やグレイにだって真似できないような」


「……本当に、そう思う?」


 俺は頷く。


「ああ。具体的な方法についても心当たりがあるし、必要なら今すぐにだって教えられるぞ」


「…………」


 ゲーム時代の知識から、ユイナにはまだ幾つもの可能性が秘められていることを俺は知っていた。

 だから、俺は続けて提案する。


「もしよかったら放課後……普段、俺が一人で『不死人形』相手に特訓してる時間でよければ、手伝おうか?」


「え? い、いいの? アレンくんの邪魔になるんじゃ……」


「大丈夫だ。それにユイナが強くなること自体は、俺にとっても恩恵があるから」


「そ、そうなの……?」


 嘘偽りのない、心からの言葉だった。

 クラスメイトの戦力底上げは、将来のことを考えても決して悪いことではない。

 今すぐ全員をサポートすることは難しくても、ユイナ一人くらいなら十分に対応できるはずだ。


「だから、遠慮せずにユイナがどうしたいか聞かせてほしい」


「だったら……教えてほしい。よろしくお願いします、アレンくん」


「ああ」


 深く頭を下げるユイナに頷いて返した後、俺はそのまま視線をルクシアへ向ける。


「あと、できればルクシアにも協力してもらいたいことがあるんだが……」


「ふえっ? 私?」


「ああ。どうせ放課後は暇だろ?」


「そ、そんなことないよ? 昼寝とか……夕寝とか……夜寝とか!」


「最後のはただの睡眠だろ」


 ぷくっと頬を膨らませるルクシアに説得を試みる。

 とはいえ暇なのは事実だったようで、すぐに了承してもらうことができ、三人で特訓することになるのだった。



 ◇◆◇



 放課後。

 俺たちは誰もいなくなった鍛錬場に集まっていた。

 まずはユイナの現状について、ゲームの時と齟齬そごがないか改めて確認する。


「一つ訊いておきたいんだが、ユイナは【バッファー】のジョブスキル以外にも使えるスキルはあるか?」


「うん、風属性の魔法が少しだけ。もっとも、【魔法使い】のジョブが獲得できるほどの才能じゃないんだけど……」


 あはは、と自嘲気味に笑うユイナ。

 そんな彼女に対し、俺は安堵していた。

 この様子なら、ゲームのようにを提案しても問題ないだろう。 


 現状のユイナは戦闘時、自分に強化魔法を発動した後、魔法を放つことで火力を補っている……が、それにはどうしても限界がある。

 【バッファー】の本質は人だけでなく、物に対しても強化魔法を扱えることにあり、才能を十全に活かすには何かしらの武器を用いた方がいい。

 かといって、補助職が剣などの近接武器を使うのはリスクが高すぎる(俺の場合はヒールを活用できる武器が接近戦用だから、例外的に選択しているだけ)。


 ゆえに、彼女が選ぶべきは――しかない。

 本人はまだ気付いていないが、風魔法以上に適性のある才能。

 その可能性を引き出すため、俺は一つの武器を取り出した。


「一度、これを使ってみてくれないか?」


「…………弓?」


 俺が出した武器を見て、ユイナは目を丸くするのだった。

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