第32話 異変
何はともあれ、これでアイアンゴーレムの討伐自体は無事に終わった。
少し待っていると、先ほどと同じように床に描かれた魔法陣が輝き出す。
光が収まった時、そこには深い黒色の刀身が特徴的な短剣が存在していた。
それを拾い上げた俺は、
「【ナイトブリンガー】……これをこのタイミングで入手できたのはありがたいな」
この武器は特殊武器に分類され、『ダンアカ』では主人公を始めとしたメインキャラしか装備できなかった。
しかし、あるメリットとデメリットを兼ね備えた尖った効果内容から、ファンの間ではまことしやかにこう囁かれていた。
もし【ナイトブリンガー】をヒーラーのアレンが装備できていたら、一年編の最強格になっていたのではないか――と。
それでも一年編までかよ! と突っ込みたくなる気持ちはあるが、それはさておき。
『ダンアカ』では、様々なゲームシステムの都合によって最弱を強いられていたアレン。
この世界が現実になった今、最弱それを覆せるかどうかはこの武器にかかっていると言っても過言ではない。
そう意気込んでいると、不意にルクシアが声をかけてくる。
「何だか禍々しい見た目の武器だね。それはどんな効果なの?」
「ああ、これはな……」
ナイトブリンガーの効果を一通り説明すると、ルクシアは怪訝そうな顔をした。
「えっと……それって、強いの……?」
「ああ。少なくとも、俺にとってはな」
そう返すと、ルクシアはしばらく考え込んだのち、
「……もしかして」
得心がいったように小さく呟く。
いずれにせよ、これの本領を発揮するのはしばらく先になるだろう。
それより、探索が始まってから既に一時間が経過しようとしていた。
「そろそろ一階に戻るか」
「だね……あー、アレン、ちょっといいかな?」
「何だ? ……本当に何だ?」
ルクシアはその場に立ち尽くし、俺に両腕を伸ばしていた。
意味が分からず二度尋ねると、彼女は子供のような口調で言う。
「疲れたから、おんぶして!」
「…………」
そうだ、忘れていた。
【天雷】は全属性の中で最大の火力を有する代わり、発動後しばらくの間、大幅なステータス低下と倦怠感のデバフが発生する。
それらは解除不能なデバフであり、俺のディスペルを使っても無意味だ。
「はあ、分かったよ」
「えへへ、ありがと、アレン!」
ナイトブリンガーを入手できたのはルクシアがいてくれたからこそ。
恩がある俺は、言う通りに彼女を背負って上を目指し始めた。
そんな状態でも、今さら15レベル以下の魔物相手には苦戦しないため、すんなりと第2階層に到着する。
「……あれ?」
そこでふと、ルクシアが不思議そうに口を開いた。
「どうした?」
「何だか突然、嫌な気配がして……さっきまでいなかった強力な魔物がダンジョン内にいるような……」
「――――」
ルクシアの発言を聞き、俺は察する。
ダンジョン実習編のメインイベントが開始したのだろう。
ダンジョン内に突如として出現した
それを覚醒したグレイが討伐することで、『ダンジョン・アカデミア』の物語は幕を開け――
「それも、
「――……は?」
一瞬。
一瞬だけ、ルクシアが何を言っているのか理解できなかった。
数秒ほどかけてようやく情報を処理するも、さらなる疑問が襲い掛かってくる。
「二体って、いったいどういう――」
その時だった。
奥からバタバタと、慌てた様子の足音が聞こえてくる。
視線を上げると、そこには二人の女子クラスメイトがいた。
様子がおかしい。明らかに何か焦っている。
「あっ、ルクシアさん! それに……アレンくんも」
二人は俺たちを見つけるや否や、まるで救いの手を求めるような表情でこちらに駆け寄ってきた。
「あの、実は、その……」
息も絶え絶えに、何かを必死に伝えようとしている。
明らかなトラブルの気配。
そこでふと、俺は気付く。
(確か、この二人は普段からユイナと一緒にいた……今日だって、一緒に探索していたはず)
なのに今、この場にユイナだけがいない。
その事実を理解した瞬間、鼓動が早くなるのを感じた。
嫌な予感がしつつ、俺は二人に問いかけた。
「落ち着け、何があった?」
「それが……探索中にいきなり、すごく強い魔物が現れて、それで……」
続けて、彼女は震える声で告げる。
「それで、
ドクンッと、心臓が大きく跳ねる音がした。
――――――――――――――――――――――――――――
本番開始。
本日はあと12時と18時に投稿予定!
どちらもユイナ視点のお話です。
最大限に盛り上げていくので、ぜひ楽しみにお待ちください……!
最後に、もしよろしければ、本作をフォローした上で読み進めていただけると幸いです!
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