第31話 【天雷】
通路を通った先に広がっていたのは、先ほどよりもさらに大きな空間だった。
四方を岩壁が囲み、至る所に大きな鉄柱が刺さった広間の中心に、奴はいた。
全身が鉄でできた巨人の魔物――アイアンゴーレム。
四メートルを優に超える巨体は威圧感を漂わせ、確かな存在感を放っている。
レベルは40と、それだけでもかなりの脅威だが、さらに厄介なギミックを有する隠しボスだ。
(まずはそのギミックを解かなければ、このボスは倒せない)
そう考えていた直後だった。
「なるほど、これはなかなか楽しめそうだね。それじゃさっそく……」
彼女は魔力を迸らせ、さっそく攻撃準備を整えていた。
俺は慌てて声を張り上げる。
「待て、ルクシア! コイツ相手に普通の攻撃は意味が――」
「――雷撃!」
制止は間に合わず、放たれた雷撃がアイアンゴーレムに命中した。
しかし、
「ゴォォォォォォォ!」
鍛錬場で複数の『不死人形』を焦がし尽くしたその一撃は、アイアンゴーレムにほん僅かな焦げ跡しか付けることができなかった。
「うそっ!?」
驚きの声を上げるルクシア。
彼女の実力から考えて、想像もできない結果だったからだろう。
しかしそうなるのも仕方ない。
この広間に刺さった計十本の鉄柱には特殊な魔法陣が埋め込まれており、一本ごとに防御力を5%上昇させる防護魔法がアイアンゴーレムにかけられている。
まずは敵の攻撃を躱しながら鉄柱を破壊していくのが、このボスの倒し方なのだ。
俺は急いで告げる。
「このボスのギミックだ! ソイツには大量の防護魔法がかけられていて、通常時より防御力が跳ね上がっている! ダメージを通すにはまず、部屋中にある鉄柱を破壊して――」
「おっけー」
「――……え?」
――防護魔法を一つずつ解いていくしかない。そう伝えようとした直後だった。
ルクシアの纏う魔力が一層膨れ上がり、迸る電気がバチバチッと轟音を鳴らす。
先ほど雷撃を放った時とは比べ物にならないほどの威圧感が、空間全体を支配していた。
「お前、まさか……」
その現象を見て、俺はルクシアがどういうつもりなのか察する。
彼女は初撃が通用しなかったのを見てギミック攻略に切り替えるのではなく、防護魔法すらも突破する一撃を放つと決断したのだ。
全てを破壊し尽くすその魔法の名を、ルクシアは告げた。
「――――――
その言葉と共に、空間そのものが震動を始める。
放たれた雷光は、まるで天の裁きのようにアイアンゴーレムに降り注いだ。
「ゥゥゥゥゥ!?」
瞬間、多重に展開された防護魔法によって均衡するも、それはほんの一瞬に過ぎなかった。
まるで紙を破るように、雷光は全ての防護魔法を突き破り、そのまま本体に命中。
轟音と共にアイアンゴーレムは焼き尽くされていった。
「ォォォォォォォォォ」
断末魔を残して消滅するアイアンゴーレム。
後に残されたのは、辺り一帯が焦土と化した光景のみ。
「…………」
ギミックガン無視の攻略を見た俺は、思わず表情を強張らせていた。
なにせこれが、彼女、ルクシア・フォトンの全力――
最上級魔法は属性ごとに特殊効果を有しており、【天雷】の場合は天候によって威力が変動するという特徴がある。
通常の室外における発動時を100%とすると、今回のような室内だと50%まで威力が減衰し、逆に雨天時だと150%まで上昇する。
つまり、だ。
全ての条件が揃った場合、ルクシアはこの三倍の火力を発揮することができるというわけである。
「……とんでもないな」
ゲームで既に凄さは知っていたつもりだったが、こうして目の当たりにすると改めて実感する。
彼女をパーティーに入れたら、主人公たちの獲得経験値が低くなる理由も良く分かった。
現に今、俺には経験値が入ってないだろうし……
「やったよ、アレン!」
そんな俺の気持ちなど知らず、ルクシアは嬉しそうにピースを向けてくる。
俺はただただ、そんな彼女に圧倒されるのだった。
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