第29話 VSジャイアントウルフ

 ジャイアントウルフとの戦いが始まる。

 この魔物の特徴は、なんといっても基本ステータスの高さだ。

 魔法や特別なスキルは持っていない代わりに、パワー、スピード、タフネス――全てが高水準となっている。


 俺ならヒーラーとしていつでも回復できるとはいえ、一度押し込まれたらそのままやられてしまう。

 まずは安全に立ち回らなければ。


「ガルゥゥ!」


 獰猛な叫びと共に、巨大な前足が地面を蹴り上げる。

 その一撃は床面に亀裂を走らせるほどの破壊力を持っていた。

 続けざまに繰り出される爪と牙の攻撃。

 俺はゲームで戦った時の行動パターンを思い出しつつ、必要最小限の動きで躱していく。


「おー! すごい!」


 背後からはルクシアの歓声が聞こえる。

 そして不思議なことに、俺自身も同じような高揚感を覚えていた。


(……思ったより余裕があるな)


 自分でも驚くほどだ。

 『不死人形』相手の特訓によるパラメータ上昇のおかげで、ステータスだけなら確かに25レベル相当に達している。

 しかしジョブ適性やパラメータの偏りを考慮すれば、ここまで簡単に対処できる敵ではないはず。


 いったいなぜ――


(――きっと、の経験があるからだ)


 そこでふと、バフォール戦を思い出す。

 あの時は今以上に緊迫した状況で、一つでも選択をしくじれば即死だった。

 周囲を覆う威圧感に震えながら、それでも必死に戦いを続けた。


 だが、今は違う。

 ジャイアントウルフが放つ圧など、バフォールとは比べ物にならない。

 むしろ、相手の動きが見えすぎるほどだ。


「グルゥゥ!?」


 一向に攻撃が当たらないことに、ジャイアントウルフが困惑の声を上げる。

 連続攻撃の反動からか、その動きが一瞬だけ鈍くなった。


「瞬刃!」


 その隙を逃さず、俺は白い毛皮に向けて短剣を振り下ろす。

 巨獣の脇腹に確かな手応えを感じるも、残念ながらその硬い皮膚を切り裂くとまではいかなかった。


「ガルァァァッ!」


 それでもある程度のダメージは与えられたのか、痛みに反応したジャイアントウルフが、尻尾を大きく振り回してくる。

 俺は咄嗟に背中を反らし、僅かな隙間で攻撃を躱した。


「ファイアボール!」


 続けて詠唱した火炎の球が、相手の顔面に直撃。

 しかし、的確に命中しても大したダメージにはならない。

 俺のジョブが【剣士】か【魔法使い】なら、この時点でかなり優勢に立てているだろう。


(それでもまだ、想定内だ)


 次の手に移る。

 つまり、ヒールを活かした裏技チート――ファイアボールにヒールを重ね掛けする!


「ファイアボール! ……そしてヒール!」


「グルゥ!?」


 純度と火力の増した火炎の球が、ジャイアントウルフに命中。

 毛皮ごと焼き尽くす炎は、通常より遥かに高い威力を誇り、これまでとは比べ物にならないダメージを与えてみせた。


「うっそ~……そんなのアリ……?」


 背後ではルクシアが驚きの声を上げている。

 魔法に対するヒールの重ね掛け自体はゲームで当たり前のように存在していた方法だが、あの反応を見るに、この世界ではあまり知られていないのかもしれない。


 そんなことを考えながら、さらに攻撃を仕掛けていく。

 基本は強化ファイアボールを連射。

 それを警戒してジャイアントウルフが防戦態勢を取ると、一気に間合いを詰めて瞬刃による斬撃を浴びせる。


「ガルゥ!? グルゥ……」


 あらゆる角度から繰り出される攻撃を受け続け、ジャイアントウルフの動きが徐々に鈍くなっていく。

 気付けば、完全に敵の防戦一方だ。


 そしてとうとう、決着の瞬間がやってくる。


「ガ、ガルァァァァァ!」


 最後の足掻きとばかりに、ここまでで一番大きく口を開け迫ってくるジャイアントウルフ。

 全身に炎の跡と斬撃の傷を負いながらも放つ一撃は、さすがにこれまでで最大の威力を持っていた。


 だが、俺はその姿を見て思わずニヤリと笑みを浮かべる。



「わざわざ弱点をさらけ出してくれたんだな――喰らえ!」


「ガルゥ!?!?!?」



 勝利を確信した瞬間、強化ファイアボールが敵の喉奥を貫いた。

 轟音と共に炎が広がり、ジャイアントウルフの巨体を内側から焼き尽くしていく。


「グ、グルゥゥゥ……」


 巨狼は苦悶の咆哮を上げ、しばらくその場で身動ぎせずにいた後、ゆっくりと崩れ落ちて光の粒子となり消滅。

 その場には魔石だけが残された。


 そして、



『経験値獲得 レベルが2アップしました』


『スキル熟練度獲得 【ファイアボール】のレベルが1アップしました』

『スキル効果が上昇します』

『スキル熟練度獲得 【瞬刃】のレベルが1アップしました』

『スキル効果が上昇します』



 格上を倒した甲斐があり、見事にレベルが2つもアップした。

 戦闘内容、獲得経験値ともに申し分ない結果だ。


「お疲れ様! すごかったよ、アレン!」


 すると直後、ルクシアが楽しそうに駆け寄ってくる。

 満足感に浸るのも程々に、俺は彼女に向き直った。


「ありがとう。けど、ここからが本命だ」


「本命?」


「ああ」


 魔物を倒したことへの達成感はあるが、正直、これから手に入るものへの期待感の方が大きかった。


「さあ、報酬を受け取るとするか」


 俺はそう告げながら、広間の奥を見据えるのだった。



――――――――――――――――――――


 アレン・クロード

 性別:男性

 年齢:15歳

 ジョブ:【ヒーラー】

 ジョブレベル:2


 レベル:23

 HP:1948/1760(+188)

 MP:282/540(+72)

 攻撃力:235(+35)

 防御力:191(+22)

 速 度:225(+31)

 知 力:312(+42)

 器 用:196(+25)

 幸 運:221(+29)


 ジョブスキル:ヒールLV6、ディスペルLV1

 汎用スキル:ファイアボールLV4、ウォーターアローLV1、瞬刃しゅんじんLV3


――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――――――――――


怒涛の四連続更新はこれでおしまいですが、ダンジョン実習編はもう少し続きます。

むしろここからが本番! 第一章ラストに向けて最大限に盛り上げていくので、ぜひ楽しみにお待ちください!


最後に、もし今回の連続更新が良かったよと言う方は、フォローした上で本作を読み進めていただけると幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る