第28話 隠し通路

 ルクシアからも許可を貰えたことで、さっそく一緒に第3階層へと向かう。

 この階層はレベル15以下の魔物が出現し、Eクラスの人間にとっては少し厳しい難易度となる。

 しかし、俺とルクシアにとっては関係なかった。


「えい! 喰らっちゃえ!」


 次々と出現する魔物を、ルクシアは低燃費な低級魔法だけで圧倒していく。

 対する俺はというと――


「キィィ!」


 甲高い声と共に、黒い影が飛翔してくる。

 ケイブバット。こういった洞窟型ダンジョンに生息するコウモリ型の魔物だ。

 レベルは13~15。動きも速く、それなりに厄介な敵。


 だが、今の俺なら――


「瞬刃!」


「キィ!?」


 剣速を上昇させるスキル瞬刃を発動し、一振りでその首を捉えてみせる。

 俺とレベル差があるとはいえ、ヒーラーのジョブ適性を考えれば決して油断できない魔物のはずなのだが、呆気なく討伐に成功した。


「この二週間の特訓が、想像以上に効いているのかもな」


 パラメータ上昇とスキルレベルアップによる恩恵がかなり大きいんだろう。

 そんな感慨に耽っていると、ルクシアが楽しそうに話しかけてくる。


「うんうん、順調だね! ……ところで迷いなく進んでるけど、どこか目指してる場所でもあるの?」


「ああ、こっちだ」


 俺が案内した先には、小さな広間が存在していた。

 周囲には所々に苔が生え、地面は長年の風化により削られている。


 その光景を前にして、ルクシアは不思議そうに首を傾げる。


「行き止まり、だよね?」


「一見しただけじゃな。けど……」


 目を凝らしてよく見てみる。

 すると、奥の壁の一部に何か不自然な変色が見て取れた。


「ここか」


 俺はその箇所に手を当て、自身の魔力を注いだ。

 直後、ギギギと耳障りな音を立てながら、壁に亀裂が入っていく。

 その亀裂は徐々に広がり、やがて奥へと続く隠し通路が姿を現した。


「ええっ!? うそ!」


 ルクシアは目を丸くして驚いている。

 ふむ、不思議と気分がいい。

 このリアクションだけでも彼女を連れてきた甲斐があったかもしれない。


 って、そんなことはどうでもよくて。


「この先に目当ての物があるんだ」


「そうなんだ……でもでも、よく知ってたね?」


 初めて挑戦するダンジョンのギミックを熟知しているのは、確かに不自然だろう。

 俺は少し言い訳を考えた後、口を開く。


「魔導図書館に置かれている本の中に、このダンジョンについての詳しい記述があったんだ。どうやら本当だったみたいだな」


「なるほど……そういえばアレン、放課後はいつも図書館に籠ってたもんね」


「よく知ってるな」


「だって、クラス中で噂になってたから。アレンだけ放課後の鍛錬場に来ないでずっとお勉強してるって」


 ふむ。

 ヒールを利用した『不死人形』との特訓を見られないように時間を変えたことで、逆に変な注目を集めてしまっていたみたいだ。

 アカデミーに通っているのに、『不死人形』相手に鍛えないのは確かに不自然だからな。

 とはいえ、特に気にすることでもないだろう。


「それより、早くいくぞ」


「うん!」


 そのまま俺たちは隠し通路の奥へと進んでいく。

 通路を抜けた先には、一回り大きな広間が待っていた。



「グルルルゥゥゥゥゥ!」



 その中心で牙を剥き出しにしているのは、全長4メートルにも及ぶ白色の毛並みが特徴的な狼型の魔物――ジャイアントウルフだった。

 その巨体からは尋常ならざる威圧感が漂っている。


 ゲームに登場した際のレベルは25と、今の俺より4つも高い。

 だけど、俺は不思議と不敵な笑みを浮かべていた。


(隠しアイテムが欲しいのもあるが、今の俺の実力を試すには絶好の相手だ)


 この二週間で特訓した成果を、存分に試させてもらおう。

 スリや道中の魔物相手は格下もいいところだったからな。


 俺は小さく息を吐いた後、ルクシアに言葉を投げる。


「ルクシア、この戦いは俺に任せてもらえないか?」


「え? 確かに、アレンの実力なら勝てるとは思うけど……私の方が安全だよ?」


「それはそうなんだが……どうしても、自分の手で倒してみたいんだ」


 ルクシアは首を傾げながらも、


「うーん……分かった! でも、ヤバそうになったら私が助けに入るからね?」


「ああ、頼む」


 俺は短剣を握りしめ、ジャイアントウルフの前まで歩を進める。

 魔物は低く唸り声を上げながら、その巨体を少しずつ起こしていく。


「グルルゥ」


「――――」


 もはや後には引けない。

 俺は力強く地面を蹴り出し、戦いの火蓋を切った。



――――――――――――――――――――


 ジャイアントウルフ

 レベル:25

 ・Eランクダンジョン【新星の迷宮】の隠しボス

 ・特別な技などは有していないが、力、スピード、耐久力ともに高水準。


――――――――――――――――――――


 アレン・クロード

 性別:男性

 年齢:15歳

 ジョブ:【ヒーラー】

 ジョブレベル:2


 レベル:21

 HP:1798/1610(+188)

 MP:503/490(+72)

 攻撃力:213(+35)

 防御力:175(+22)

 速 度:202(+31)

 知 力:288(+42)

 器 用:180(+25)

 幸 運:202(+29)


 ジョブスキル:ヒールLV6、ディスペルLV1

 汎用スキル:ファイアボールLV3、ウォーターアローLV1、瞬刃しゅんじんLV2


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