第22話 特訓開始

 ルクシアの登場に、取り巻きたちが驚愕の声を上げる。



「おい、今のって雷魔法だよな?」


「それも、『不死人形』にまとめてあれだけのダメージを与えるなんて……」


「何でこんな奴がEクラスにいるんだ!?」



 雷属性は、基本属性である風の上位属性。

 入学当初から上位属性を扱える学生など滅多に存在せず、いたとしてもルクシアとリリアナ(氷属性)くらいだ。


 そして何よりの問題は、そんな上位属性の使い手がEクラスに所属している点。

 彼らはその事実に驚き、そして困惑しているようだった。


「ふあぁ~。ねえ、ちょっと話が聞こえてきたんだけど……」


 目をこすりながら、ルクシアはユーリたちに近づいていく。

 少女のゆったりとした歩行に関わらず、まるで周囲を押さえつけるかのよう。


「要するに、さ」


 ルクシアはちらりと焦げ付いた『不死人形』たちを見た後、いたって普通の様子で告げる。


「みんなのアレを、私に譲りに来てくれた……ってことでいいのかな?」


「――――!」


 ルクシアからわずかに漏れ出た魔力に圧倒され、ユーリが一歩後ずさる。


 元々Aクラスの主張は、自分たちの方が短時間で『不死人形』にダメージを与え有効的に扱えるため、譲り渡すようにというものだった。

 今のルクシアのセリフはそこを逆手に取り、『私の方が多くのダメージを与えられるんだから、こっちが譲ってもらえる側だよね?』と主張する、いわば恫喝返しだ。


 訪れる重たい沈黙。

 しかし数秒後、ルクシアはふわっと笑みを浮かべて言う。


「冗談だよ~。それに、あまり好き勝手しちゃうと学園長さんにも怒られちゃうし。あの人すっごく怖いから、貴女たちも気を付けた方がいいと思うよ?」


「…………お前は」


「ほら、帰って帰って。お昼寝の邪魔になっちゃうから!」


「っ……失礼する」


 しばらく逡巡の態度を続けたのち、ユーリと取り巻きたちは鍛錬場を出ていった。

 そう。このチュートリアル戦はグレイが挫折するのと同時に、ユーリのプライドが折られる一つ目のシーンでもある。

 ここからそれぞれの因縁が生まれるわけだが……それはともかくとして、


 ユーリたちが立ち去った瞬間、鍛錬場内で歓声が沸いた。



「すごい! まさかルクシアさんが、こんなに強かったなんて……!」


「ああ、びっくりしたな」


「とてもかっこよかったです!」



 ルクシアへの称賛の声が次々と上がる。

 そんな中、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。


「ごめんね。私、みんなの『不死人形』にダメージを与えちゃって……」


「そんなの気にしないでください!」


「ああ。むしろ俺たちの代わりに、Aクラスの奴らに一撃お見舞いしてくれたようなものだからな」


「そうそう。これで当分は、あいつらも強行な真似はできないはず」


 歓喜に沸くクラスメイトたち。

 そんな中を、グレイがゆっくりとルクシアの元へ歩み寄る。


「……ルクシア、ありがとう」


「え? ううん、大丈夫、気にしないで!」


 軽快な態度で答えるルクシア。

 その仕草は、先ほどまでの威圧的な空気が嘘のようだった。


「無事に済んでよかったね……」


「ああ」


 ユイナと話しながら、俺はその光景を見届ける。

 何はともあれ、これでこのシーンは問題なく終了だ。


 その後、ルクシアの活躍に影響を受けたのだろうか。

 皆はやる気に満ちた様子で鍛錬を続けるのだった。



 ◇◆◇



 一時間以上が経過し、Eクラス用の鍛錬場からは人の姿がなくなっていた。

 現時点の彼らは実力もMP量も足りていないため、『不死人形』より自分たちが先に限界を迎える。

 そういう意味では、ユーリたちの主張も的を外れてはいないのだが……それはさておき。


「一人で使うとなると、広く感じるな」


 俺は再び、この鍛錬場に戻ってきていた。

 ヒールによる裏技は周囲に人がいる前だとやりにくいため、こうして誰もいない時間を狙ったというわけだ。


「ポーションなんかの準備はあらかた済んだ。あとはただひたすらに、鍛錬を重ねるだけだ」


 ダンジョン実習まであと二週間。

 ゲームでならまだ、キャラクターとの親交を深めるパートだが、そんな僅かな時間でも無駄にする気はない。


 俺は主人公グレイじゃない。

 いくらヒールやゲーム知識による裏技を使えようと、一段飛ばしに覚醒なんてできない。

 日々の積み重ねで強くなっていくしかないのだから。


「よし、やるか」


 そう呟き、俺は『不死人形』に向かってファイアボールを発動した。

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