第6話 メインヒロインとの遭遇

 その後も休憩を挟みながら、数体のハイゴブリンを討伐することができた。

 しかし、同時に看過できない問題にも直面する。


 ずばりそれは、MP問題だ。


「初めから分かってたことだけど……ファイアーボールにヒールを重ね掛けする分、魔法職に比べて倍近いMPを消費してしまう。これはなかなか厄介だな」


 このままだと、強敵との戦闘時はもちろん、長時間のダンジョン攻略やレベル上げの際にも支障をきたすことになる。

 せっかく火力を手に入れられたとしても、それを然るべき場所で発動できないようであれば意味がない。


「レベルを上げるのはもちろんだが、『ダンアカ』ではそれ以外にも魔力を増やす方法は幾つもあった。全てを活用して、最短効率で進めていこう」


 そう決意を固めた直後だった。



「きゃぁぁぁあああああ!」


「――――――!?」



 突如として、どこかから女性らしき悲鳴が聞こえてくる。

 Fランクダンジョンに似つかわしくない絶望を孕んだ声色が、何かしらの非常事態であることを証明していた。


「っ、何があったんだ?」


 声の聞こえ具合からして、そう遠くない場所にいるはず。

 とにかく状況だけでも確認しようと、俺はそちらに向けて駆け出した。



 数十秒後、たどり着いたのは行き止まりの大広間。

 そこには一体の魔物と、二人の人間がいた。


 俺の視線はまず、三メートルほどの背丈がある魔物に釘付けになった。


 漆黒の体毛に覆われた巨体は人型をしていたが、その頭部は明らかに異形だった。

 巨大な山羊の頭から生える二本の角は不自然なほどに捻じれており、その先端からは禍々しい闇のオーラが漏れ出している。

 そして何より目を引いたのは、背後で蛇のように蠢く長大な尻尾だった。

 まるで意思を持つかのように不規則に動き、床を這う様は得体の知れない不気味さを醸し出している。


 その様子を見て、俺は思わず目を見開いた。



(嘘だろ!? なんで“バフォール”がこんなところにいるんだ!?)



 バフォール。

 それは『ダンアカ』に登場する、現実世界の伝承存在・バフォメットをモチーフにした悪魔種の魔物。

 強力な闇属性の魔法を行使し、そのレベルは最低でも60に達する。

 間違っても、こんなFランクダンジョンにいていい存在ではない。


(いったい、何が起きてるんだ?)


 困惑しながら視線を奥に向けると、そこには短剣を両手に構えた、黒髪ボブのメイド服姿の見知らぬ女性がいた。

 全身に傷を負いながらも、なお魔物に向かって刃を向けている。


 続けて最後の一人に目を向けようとした、その瞬間だった。




「――――フロストノヴァ!」




 透き通るような声と共に、大広間の空気が一気に凍てつく。

 放たれた氷の魔法がバフォールを直撃し、その巨体に深々と食い込んでいった。


『グガァァァアアアアア!!!』


 バフォールは痛みに悶えるように叫び声を上げるも、俺はそちらに意識を割くことができなかった。

 俺にとって、それ以上に重要なことがあったからだ。


(フロストノヴァ……? まさか!)


 聞き覚えのある魔法の名に、俺は思わず声の主へと視線を向ける。

 銀髪のロングヘアが大気に揺れ、透き通るような白い肌と、鮮やかな蒼色の瞳を持つ少女――



「――――!」



 その姿を見た瞬間、思わず息を呑む。


 間違いない。

 そこにいたのは、『ダンアカ』に登場するメインヒロインの一人。

 アイスフェルト皇国第二皇女、リリアナ・フォン・アイスフェルトだった。

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