第5話 ヒール×裏テクニック=最強

 検証のため探索を続けていると、突如として獰猛な咆哮が響き渡った。


「ゴオオォォォ!」


 通路の向こうから姿を現したのは、先ほどのゴブリンより一回り大きな亜種。

 緑の肌に赤い眼光を放ち、こぶだらけの腕で石斧を構えている。


「ハイゴブリンか」


 ゲームにおけるレベルは8~9程度。

 つまり、今の俺と同等の強さということになる。

 先ほど格下のゴブリン相手に苦戦したことを考えれば、撤退を選ぶべきだろう。


 しかし、俺にはある秘策があった。


「ファイアボール」


 詠唱と共に、左手の上に炎の球が生成される。

 通常なら即座に放つところだが、俺はそのまま炎を維持し続けた。



(さあ――



 『ダンアカ』において、さすがに開発者もアレンが弱すぎると考えたからだろうか。

 実は、ヒールには特殊な活用方法が存在していた。


 ヒールの効果は、対象の魔力に干渉し、本来の形に戻すというもの。

 そして驚くべきことに、それはのだ。


 そして魔法における本来の形とは、魔法職が発動したもののこと。

 ジョブによる補正がない状態で構築した魔法は不完全であり、それゆえに威力が低いとされている。


 なら、そこにヒールを発動してやれば――


「ヒール!」


 詠唱と共に、浮かべていた炎の球が淡い光に包まれた。

 すると、不安定だった炎が一気に収束する。

 まるで生命を得たかのように脈動しながら、より純度の高い魔力の塊へと変貌を遂げていった。


「ッ、ガァァァァァ!」


 その様子を見て、嫌な予感がしたのだろうか。

 ハイゴブリンは焦燥した様子で石斧を大きく振りかぶると、一目散に俺へと襲いかかってくる。


「させるか――喰らえ!」


 馬鹿正直に待ち受けてやるほど、俺は優しくない。

 ハイゴブリンに向け、俺は強化した――否、ファイアボールを放った。


 大気中の酸素を吸収しさらに膨れ上がった炎の球が、ゴゥと音を立てて敵に迫る。

 そして、


 ドォォォォン!


 直撃を受けたハイゴブリンの胴体が、閃光と共に弾け飛んだ。

 先ほどのゴブリン戦とは違い、これは完全な致命傷だ。


「ゴ、オォォ……」


 断末魔の声と共に、ハイゴブリンが光の粒子となって消滅する。

 すると、その直後。



『経験値獲得 レベルが1アップしました』



 ゲームでもお馴染みだったシステム音が脳内に響き渡る。

 同レベル帯の魔物が相手だったこともあり、貰える経験値が多かったようだ。


 しかし俺はレベルが上がったこと以上に、この裏テクニックが成功した事実の方が嬉しかった。


「よし! ゲーム通りに通用したな!」


 歓喜に従うまま、グッとガッツポーズをする。

 この裏テクニックが成功した以上、他の作戦も上手くいく可能性が高い。

 あらゆる策を駆使して最強に登りつめるという計画が、間違っていないことを確信できた。


「この調子でガンガン成長していくぞ」


 力強く意気込む。

 しかし、この時の俺はまだ知らなかった。



 たった数十分後――このダンジョンで、今の俺には対処することなどできないほどの困難に遭遇することを。



――――――――――――――――――――


 アレン・クロード

 性別:男性

 年齢:15歳

 ジョブ:【ヒーラー】

 ジョブレベル:1


 レベル:10

 HP:792/792

 MP:110/208

 攻撃力:101

 防御力:88

 速 度:95

 知 力:133

 器 用:88

 幸 運:95


 ジョブスキル:ヒールLV3

 汎用スキル:ファイアボールLV1、瞬刃しゅんじんLV1


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