第4話 外れジョブ【ヒーラー】

 ヒーラーが最弱職扱いされる理由には、回復魔法の仕組みが大きく関わっている。


 この世界における回復魔法とは、対象の持つ魔力に干渉し、傷や異常を本来あるべき状態へと戻す魔法だ。

 いわば、復元力への干渉とも言えるだろう。


 ここで問題となるのは、他者に回復魔法を使用する場合である。

 人や魔物の体には既に固有の魔力が流れており、他者の魔力がそこに干渉する際に強い抵抗を受けてしまうのだ。

 これは生命体が本能的に持つ防衛機能とも言え、敵からの魔法攻撃を跳ね返す時には重要な役割を果たしている。


 しかし同時に、その特性は

 その結果、自分への回復量を100%とした時、他者に使用した時の効果は50%近くまで減衰する。

 自分の傷なら一回のヒールで完治する怪我でも、他者に使用した場合は二回、場合によっては三回の詠唱が必要になるくらいには効率が悪いというわけだ。


「本当に、アレンにとっては厄介な設定だよな……」


 思わず愚痴を零してしまうが、回復魔法の性能自体を除いても、ゲームでアレンが使用されない理由は多々あった。


 一つ。

 『ダンアカ』には多種多様のアイテムが存在しており、特にポーションや回復用の魔道具について、物語中盤から安価で大量に購入できること。

 これにより、わざわざパーティーの貴重な一枠にアレンを入れる必要がなくなる。


 二つ。

 ヒーラーやバッファーといった支援職は敵のヘイトを集めやすく、パーティーに入れても真っ先にやられてしまうこと。

 戦闘職をサポートするための支援職が逆に介護されるという、まさに本末転倒の事態に繋がってしまう。


 そして、三つ目。

 ある意味ではこれが最大の理由かもしれない。


 それは、ずばり――



「せっかくの恋愛ゲームなのに、使用者は特徴のない男子モブなんだ。そりゃ、積極的に使われたりしないよな……」



 ――ということである。

 男子諸君なら、この気持ちをよーく理解できることだろう。


 その証拠に、モブクラスメイトの中にはヒーラーと同様のデメリットを持つバッファーの女子生徒がいたのだが、彼女については顔が可愛いという、ただそれだけの理由でパーティーに入れる者が多くいた。

 システムを最大限まで活用し、なんとか死なないよう全力を尽くすのだ。

 しかし悲しいことに、アレン相手に同じだけの熱量をもってくれるプレイヤーはほとんど存在しなかった。


「っと、そんな泣き言ばかりもいってられない」


 現実としてアレンになった今、この身でできることだけを考えるべきだろう。

 その点で言うと、改めて気になったことが一つ存在していた。


 それはアレンが持つ汎用スキルについてだ。

 『ダンアカ』ではジョブスキル以外にも、適性のある系統のスキルを獲得することができる。

 アレンで言うところの、ファイアボールと瞬刃だ。


 ゲームをプレイしていた時は、回復系のスキルだけでは戦いようがないための救済措置だと捉えていたが……

 ここが現実だという前提のもとに考えると、かなりの違和感を覚える。

 


「アレンはヒーラー以外に、剣士や魔法使いにも適性があったってことだよな? なんでわざわざ、使い勝手の悪いヒーラーを選んだんだろう……」



 この世界でのジョブは本人の選択制となっている。

 本人の器が十分に仕上がった時、突如として女神から選択可能なジョブがもたらされるのだ。

 平均して14歳の時に与えられるとされており、適切な鍛錬を組んでいる貴族などの場合だと、もっと早くに獲得することもあるという。


 つまるところ、アレンには他の選択肢もあったはずなのだ。

 それなのにどうして、この世界でも明らかに不遇な支援職を選んだのか――


 アレンの記憶を見れないことが、ここに来てこんなに歯痒く思うとは。

 

「まあ、その辺りを今考えても仕方ないか」


 さしあたっての問題は、今のゴブリン戦から分かる通り、正攻法では格下相手にも苦戦するという事実。


 だが、それを解決するための策は既に考えてあった。

 本来なら回復にしか使用できないヒールだが、が存在するのだ。

 次はそれを実行できるか試すとしよう。


「ここからようやく、検証の本番開始だ」

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