第3話 初戦闘

 ゴブリンは棍棒を大きく振りかぶると、俺に向けてまっすぐ迫ってきた。


「ガァアアア!」


「――っと」


 俺は横っ飛びで攻撃を躱しながら、どう反撃すべきか思考を回す。

 現在、俺の手持ちスキルは3つ。


――――――――――――――――――――


【ヒール】LV3

 属性:聖

 分類:治癒系統の初級スキル

 効果:MPを消費することで対象の魔力に干渉し、本来の状態に戻す。


――――――――――――――――――――


【ファイアボール】LV1

 属性:火

 分類:魔法系統の初級スキル

 効果:MPを消費することで炎の球を打ち出すことができる。


――――――――――――――――――――


瞬刃しゅんじん】LV1

 属性:無

 分類:剣士系統の初級スキル

 効果:MPを消費することで一時的に剣速を上昇させることができる。


――――――――――――――――――――


 攻撃力を持たないヒールは論外として、残りは火属性の魔法ファイアボールと、短剣の振るう速度を上げてくる瞬刃。

 ゴブリンとの距離を考えると、ここは――


「ファイアボール!」


 詠唱と共に俺の掌から放たれた炎の球がゴブリンに直撃した。

 閃光と共に爆発し、一瞬だけ視界が真っ白になる。


 しかし数秒後、煙が晴れた向こうで、ゴブリンは全身を火傷で焼かれながらもまだ立っていた。

 その光景を見た俺は、思わず眉をひそめる。


「予想はしていたが、レベル差があっても一発じゃ倒せないのか……」


 魔法職が放てば、まず間違いなく一撃で余裕で倒せていただろう。

 文句の一つでも言いたいところだが、残念ながら悪態をつく暇もない。

 火を振り払うように、ゴブリンが牙を剥き出しにして接近してきたからだ。


 この距離では、次のファイアボールは間に合わない――


「瞬刃!」


 詠唱と共に、短剣を握る右腕を中心に風のような速度上昇効果が宿る。

 俺はそのまま素早く距離を詰め、短剣を振り下ろした。


 ザシュッ!


「ガァァァ!?」


 確かな手応え。

 ゴブリンの肩口に深く斬り込むことに成功する。

 しかしそれでもまだゴブリンは倒れず、抗うように棍棒を連続で振るってくる。

 俺はそれをかいくぐるようにして、さらに横腹に追撃の一撃を放った。


「ァ、ァァァァァ」


 断末魔の声と共に、ゴブリンがその場に崩れ落ちる。

 そのまま淡い光となって消滅すると、後には討伐完了を証明する魔石だけが残されていた。


 『ダンアカ』では魔物の討伐時、亡骸は消滅し、代わりに魔石と、極稀に素材やアイテムがドロップする仕様となっている。

 残念ながら今回は魔石だけだったようだ。


 俺はゆっくりと息を吐く。


「はぁ……格下の魔物を一匹倒すのにも、これだけ苦労するのか……っ」


 左手に鋭い痛みを感じたので視線を落とすと、浅い切り傷ができていた。

 最後の攻防時、敵の攻撃が掠りでもしたのだろう。

 俺はすぐに右手をかざし、ゆっくりと詠唱を告げた。


「ヒール」


 すると、左手が淡い光に覆われ、瞬く間に傷が癒えていく。

 その光景を見届けた俺は、思わず苦笑いした。


「まったく。このスキルも、自分に使う分には優秀なんだけどな……」


 通常のRPGの場合、ヒーラーはパーティーに最低でも一人は必要なジョブ。

 オンラインゲームにもなれば、多くのプレイヤーから引く手数多の超人気職と言ってもいいだろう。


 それがなぜ、『ダンアカ』では最弱職扱いされているのか。

 その理由について、俺はここで改めて整理することにした。

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