第2話 ステータス

 腰元に差した短剣の感触を確かめ、ポーションが入った小さな革袋の位置を確認しつつ、迷宮都市の中を歩く。

 すると古びた石造りの建物の隙間から、目的地であるダンジョンが見えてきた。


「ここが【駆け出しの迷宮】か」


 この迷宮都市にあるダンジョンの大半は、ステラアカデミーの管理下にある。

 各入口には魔導センサーが設置されており、学生は入学と同時に支給される魔導学生証をかざすことで探索が可能となるのだ。


 入学式を10日後に控える俺はまだ魔導学生証を持っていないが、その状態でも一つだけ、入学証明書さえあれば入れるダンジョンが存在する。

 それがこのFランクダンジョン【駆け出しの迷宮】。

 ステラアカデミーに合格している時点で最低限の実力があることは分かっているため、特別に入学前から探索が許可されているというわけだ。


 入口に着いた俺は、入り口のセンサーに入学証明書をかざす。

 すると、その直後。


『入学証明書を確認しました。アレン・クロードの入場を許可します』


 そんなシステム音が鳴り響き、入り口に設置されたゲートがガチャリと開く。

 目の前に出現するのは地下へと続く階段。


 俺は一つ深呼吸すると、ゆっくり足を前に踏み出した。


「よし、いくか」



 階段を下りた先は、典型的な洞窟型のダンジョンだった。

 粗く削られた岩壁には魔力結晶が埋め込まれており、程よい明るさで通路を照らしている。


 【駆け出しの迷宮】は一階層しかない代わりに広大な探索エリアを持つ。

 奥に進むほど出現する魔物は強くなっていくが、Fランクだけあってそれもたかが知れている。

 その代わり、特別なアイテムや攻略報酬がもらえることはないが……まあ、俺の実力を検証するにはちょうどいいダンジョンだろう。


 っと、そうだ。

 検証といえば、今のうちに確認しておきたいことがある。


「ステータスオープン」


 そう呟くと、目の前にゲームで見慣れた透明のウィンドウが出現した。



――――――――――――――――――――


 アレン・クロード

 性別:男性

 年齢:15歳

 ジョブ:【ヒーラー】

 ジョブレベル:1


 レベル:9

 HP:720/720

 MP:180/180

 攻撃力:90

 防御力:80

 速 度:85

 知 力:120

 器 用:80

 幸 運:85


 ジョブスキル:ヒールLV3

 汎用スキル:ファイアボールLV1、瞬刃しゅんじんLV1


――――――――――――――――――――



「よし、ちゃんと表示されたな」


 そこに刻まれていたのは、外ならぬアレン・クロードのステータスだった。

 『ダンアカ』では一般的なRPGと同様にステータス制を採用しており、一目でキャラクターの情報を確認することができた。

 ゲーム世界が現実になったことで、もしかしたら見れなくなっている可能性も考えていたが杞憂だったようだ。


 まず視界に入ったのは、レベル9の文字。

 レベル9はアカデミーの新入生として高くも低くもない数値だが、ジョブが【ヒーラー】の場合は話が変わる。


 この世界ではジョブを獲得すると、ジョブスキルの習得までにかかる時間が短縮される他、そのスキル効果が大幅に上昇する仕組みとなっている。

 ヒーラーの場合は当然、回復魔法を始めとしたスキルの効果が上昇するのだが、肝心の回復魔法にはこの世界特有の制約があるため、そう上手くことが運ばないのが現実だ。


「ギィャァァァアアアアア!」


「――!?」


 その時、けたたましい叫び声と共に、何かが近付いてくる足音がする。

 振り返ると、そこには石の棍棒を握りしめた、小さな緑色の小鬼が立っていた。

 体高は俺の腰ほどしかないが、ごつごつとした筋肉を纏った腕は、その小さな体格からは想像できないほどの力強さを感じさせる。


「……ゴブリンか」


 俺はいったん思考を中断すると、腰から短剣を抜き目の前の敵に集中する。

 【駆け出しの迷宮】に登場するゴブリンのレベルは5~6程度だったはず。

 ヒーラーというハンデがあるとはいえ、今の俺でも十分に倒せる魔物であり、初戦闘の相手としてはちょうどいいだろう。


「ァァァ!」


 そう分析していると、さっそくゴブリンが棍棒を手に襲い掛かって来た。

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