死にゲー世界のモブに転生した俺は、外れジョブ【ヒーラー】とゲーム知識で最強に至る
八又ナガト
第1話 最弱モブへの転生
「――へ?」
目の前に突如として現れた壮麗な建物に、思わず声が漏れた。
どうして俺はこんなところにいるんだ? ついさっきまでは自室にいたはず。
いや、待て。この建物、どこかで見たことがあるような気が――
「新入生さんですね。入寮案内はこちらになります」
その時、颯爽と近づいてきた制服姿の女性に声をかけられ、更に混乱が深まる。
寮? 新入生? いったい何を言って……
「……ん?」
戸惑いのまま、ふと建物の窓ガラスに映る自分の姿に目が留まった。
黒髪をやや長めに伸ばした、目立たない容姿の少年。制服に身を包んだ体格は中肉中背で、瞳には儚げな印象が宿る。
人混みの中に入れば、すぐに見失ってしまいそうな存在感の薄さ。
そこに移っていたのは間違いなく、俺が前世で死ぬほどプレイした『ダンジョン・アカデミア』に登場するモブキャラ――アレン・クロードだった。
そこでようやく、俺は自分が『ダンジョン・アカデミア』の世界に転生したことを把握した。
普通なら戸惑うべき状況だが、不思議なことにスッと腑に落ちる感覚があった。
ただ、どうしても納得できない点が一つ。
(よりにもよって、
俺は思わず、心の中でそう叫んだ。
◇◆◇
「さて。いったいどうなってるんだか……」
寮の自室に案内してもらった後、俺は改めて状況を整理することにした。
名作恋愛アクションRPG『ダンジョン・アカデミア』。
通称『ダンアカ』は、アストラル王国の迷宮都市にある、ステラアカデミーを舞台とした3年間を描いた大人気ファンタジーゲームである。
主人公が所属するクラスを中心にストーリーが展開し、ダンジョン攻略、魔族との戦い、ヒロインたちとの恋愛など、その内容は多岐にわたる。
最大の特徴として、ヒロインやサブキャラだけでなく、本来であれば物語に関係しないモブクラスメイトをパーティーに入れられるというシステムが存在していた。
それにより幅広いプレイスタイルが可能となるわけだが、中には使い道が一切存在しないといわれているキャラクターもいる。
その最たる存在が、俺――アレン・クロード、通称『最弱モブ』である。
アレンは使用可能キャラの中で唯一の【ヒーラー】なのだが、『ダンアカ』では幾つもの理由からヒーラーの地位が低く、最弱職と呼ばれていた。
入寮を終え、ゲームの開始時点であるアカデミー入学まではあと10日ほどあるようだが、このまま入学したところで落ちこぼれ扱いされるのは間違いないだろう。
「それだけじゃない」
仮にその立場は受け入れたとしても、一番の問題は別にある。
このままだと、
『ダンアカ』はファンから、いわゆる“死にゲー”と呼ばれていた。
その理由は幾つも存在する。
一つは、単純にゲーム自体の難易度が高く、完全クリアまでに数百回の
一つは、マルチエンディングを採用している本作だが、ルートによっては主人公や人気ヒロインが死亡したまま完結すること。中には、共通ルートで退場してしまうヒロインすら存在する。
そして最後の一つ。それは本作の最大の特徴でもある『モブ退場システム』だ。
主人公を含めたメインキャラが戦闘不能になれば強制的にゲームオーバーとなる本作だが、モブクラスメイトが戦闘不能になった場合、そのままキャラが死亡したものとしてストーリーは続行するのである。
さらに、超高難易度シナリオをクリアするためには、クラスメイトの犠牲が必要となる場面が幾つもあった。
中でも最たるイベントが、2学年後期に発生する魔族との戦争パート。
それは俺を含む廃ゲーマーたちですら、いくら犠牲を0にしようとしても達成できなかったほどの鬼畜難易度となっている。
どれだけ頑張っても1~2人の犠牲は必須であり、メインキャラが死ねばゲームオーバーとなる関係上、その犠牲は当然モブクラスメイトの中から選ばれることに。
才能の無いアレンは、プレイヤーたちから切り捨てられる生贄筆頭だった。
このまま入学して学園生活を送るとしたら、俺の身にも同じことが起こるだろう。
そもそもアレンの実力では、戦争パートまで生き残れるかすら怪しい。
それだけ、アレンの【ヒーラー】は外れジョブなのだ。
「いっそのこと、今から入学辞退でもするか?」
一瞬そんな考えが浮かぶも、すぐに頭を横に振る。
アレンに転生したものの、残念ながら今の俺にアレンとして育ってきた記憶はなかった。記憶が引き継がれないタイプの転生なのだろう。
知っているのは容姿と名前。あとは公式設定資料集に載っていた簡素な情報くらいである。
そこから分かるのはアレンは両親が既に亡くなっており、身寄りがないということだけ。
今さら入学を辞退したところで行く当てなどどこにもないのだ。
それならまだ、勝手を知るステラアカデミーに所属しておいた方がいい――
「っ!」
ここでふと、俺は大切なことを思い出した。
「そうだ、今の俺にはゲーム知識がある」
これからステラアカデミーで発生するイベントの数々はもちろん、ダンジョンの情報、魔物の行動パターン、特殊アイテムの使い方など、この世界で生きていく上で重要なことを全て知っているのだ。
それらを駆使すれば、たとえ外れジョブでも効率よく成長できるはず。
さらに、だ。
ゲーム内ではモブキャラに制限が存在し、使用できない特殊な武器やスキルオーブが幾つ存在していた。
もしそれらを自由自在に使えるとすれば、一気に未来が広がる。
「ダンアカでは外れジョブだった【ヒーラー】だけど……この世界が現実になった今、それらのアイテムを組み合わせれば、強くなれる可能性は十分にあるはずだ」
ゲームを何度もプレイする中、強く思ったことがある。
この世界の回復魔法は少々特殊な仕組みとなっており、それが最弱職と呼ばれる所以に繋がっていたのだが……もし
ヒーラーはゲームシステムによって最弱を強いられていただけで、本来であれば可能性に満ちた職業でもあったのだ。
ゲームから現実になった今、その仮説を片っ端から試すことができる。
「いいさ、やってやるよ」
この世界で生きていくためにも、外れジョブとゲーム知識を駆使して、最強を目指すことを俺は決意した。
「まずはアカデミー入学までの10日間で、できる限りの検証といくか」
ここは迷宮都市と呼ばれるだけはあり、大小さまざまなダンジョンが存在する。
中には入学前でも探索許可をもらえる低難易度ダンジョンが存在していたはず。
そこでなら、今すぐにでも考えを実行に移すことができる。
「よし、そうと決まればさっそく――」
方針を決めた俺は、最低限の準備を整えて初めてのダンジョンに向かうのだった。
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