第52話 結末

「はあぁぁぁぁっ!?何だあのメモリーは!?何で一般高校生がエリクシルを持っているんだ!?」

 

 ゲームマスターが実況をすることを忘れ、トーマの映る画面に釘付けになっていた。

 それもそのはず。

 トーマの持っていたエリクシルの欠片は被験者の器官であり、莫大なエネルギー源でもある。

 この器官を持つ者は人智を超えた力を持ち、それと同時にヒトではなくなる。

 事の発端は人間に他の生物の細胞を埋め込ませて過酷な環境となった地球に適合できるようにと願われた実験だった。

 数多の被験者が手術を受けるも、生き物としての形を取ることができず、即死或いはゾンビ化していた。

 千人の被験者を超えた辺りで研究の打ち止めが掛かる頃、生き物としての形を持った生物が誕生した。

 埋め込まれた生き物の特性を持った上で人間の行動が制限されている環境であっても平気な身体を得た人類。

 その外見の特性から【獣人】と名付けられ、世間に存在を知らしめた。

 しかし、人道的であった実験は日に日に非人道的なものへと変わっていき、やがては人権を剥奪されることtなる。

 事の発端は第四次世界大戦。

 『始まりの獣人』から四人が選ばれ、戦場へと出兵させられる。

 その戦争の内容は圧倒的な蹂躙だった。

 獣人となった者の肉体は非常に強固であり、銃弾は愚か、最新の軍事兵器だった超電磁砲の直撃を受けても傷つかなかった。

 獣人はそれだけでなく、不思議な力を扱うことができ、戦車や軍艦、戦闘機をも破壊し尽くし、敵国の攻撃をたった四人で退けた。

 四人いた獣人は突然謎の症状に見舞われ、三人は戦死した。

 科学者、政治家、軍からするとたった四人で八十万人を超える軍勢を退けた事は最高の結果だといえる。

 実験体最後の一人も非常に衰弱していたものの、碧く輝く石を三つほど持ち帰った。

 それを分析にかけると一つで国の電力五十年分のエネルギーが内蔵されており、これが後に【エリクシル】と名付けられた。

 そして、今までのゾンビ化した者たちからも採取ができ、国のトップに近いものたちが歓喜の声を上げる。

 やはりというべきか、「人間の格好をした獣人が欲しい」という矛盾した願いが現れ、実験が進められていく。

 内容は簡単で、【エリクシル】に耐えうる人類を作るというものだった。

 実験は難航を極めるものであったが、国民の総数が半分になったあたりで一人の成功者が現れた。

 この成功者は獣人よりも能力が高く、劣化や衰弱することがなく、何よりたった一人で敵国を二度と戦争に復帰できないほどの爪痕を与えたため、政治家や軍は大喜びだ。

 しかし、喜んでばかりはいられないのが現実。

 神のごとく力を得た【それ】は国の上層部の人間を全て抹消し、自身が国の長となった。

 次第に数を少しずつ増やしていき、彼らは【新人類】と名乗るようになった。

 【新人類】を作り出すときに、非常に凶暴な人ならざるものが現れ、世間には怪物として認知することとなる。

 それの駆除を番組の参加者にさせるのが【シャドウズ・オブ・ロンギング】の本質であり、ゲームマスターの計画の一つだった。

 トーマたちが倒してきた怪物の【エリクシル】は全て回収してきたが、ゲームマスターはトーマが隠し持っていることを知らなかった。

 驚愕の表情を仮面の下で浮かべていたものの、次第に口角が上がっていく。

 

「キミがそれを持っているのならば話が早い……!今こそ新人類と成り、その力を見せつけてやるのだ!ハアーーーーハッハッハッハ!」


 ゲームマスターの笑い声が会場で響き渡るも、ボルテージの高い感性のおかげですべて掻き消されたのだった。


 §


 トーマは足を一歩出す。

 その一歩は異常に大きく、十メートルの距離をたった一歩で、一瞬にゼロとの距離を詰める。

 辛うじて反応ができたゼロはトーマの喉を噛み千切ろうと大きく口を開けるが、空振りに終わり、逆に地面に叩きつけられる。

 すぐに起きあがり臨戦態勢をとるものの、トーマの動きが常人をはるかに超えているものだと見せつけられる。

 

「メモリーだけでこれほどの力が……?いや……そういうことか」

 

 何かを察したゼロはその場で構えを取り、右腕に力を集約させる。

 トーマが動くたびに目から発せられる赤い残光がゼロを翻弄させるが、それを鬱陶しいと感じたゼロは瞼を閉じて集中する。

 そして、何もない場所に向けて拳を突き出した瞬間、トーマの拳とゼロの拳が衝突する。

 ゼロの勘がメモリーの差を埋めた瞬間であり、ゼロにとって最高の反撃のチャンスとなった。

 左ストレートを繰り出そうとした瞬間、ゼロは膝から崩れ落ち、立てなくなる。

 原因がわからず、トーマの追撃を待つが一向に来ない。

 首だけを動かし、周囲を確認すると、トーマも同じように倒れていた。

 トーマの方が蓄積されたダメージも多く、換装も解けている為、ゼロの勝利であることは間違いない。

 

『ミッション終了です』


 そのアナウンスと同時に二人は会場に【飛ばされた】。

 そして、二人はゲームマスターによって【元に戻され】、回復させられるが、トーマは意識を失ったままである。


「いやいや……なんというべきか、すごく見ごたえのあるミッションだったよ!優勝は最後まで意識を保っていたゼロ……いや、桜井零のものだ!」


 ゲームマスターがゼロの腕を持ち上げてアピールするが、すぐに振りほどいて腕を組む。


『ゼーロッ!!ゼーロッ!!ゼーロッ!!ゼーロッ!!』


 ゼロコールが響き渡る会場でゼロとゲームマスターにスポットライトが向けられた。


「桜井零。キミは全てのミッションをこなし、見事優勝を獲得した!キミの願いは何か答えてもらおう!!」


 オーディエンス、サポーターたちがその願いを聞き漏らすまいと口を閉じ、静寂に包まれる。

 ゼロは少し考えた後、口を開く。

 

「……【シャドウズ・オブ・ロンギング】を無かったことにし、過去現在すべての参加者を永遠に戦わせる日常の創生。ルールは俺を元締め件プレイヤーとして参加させること。今までの温いゲームではなく、本気の殺し合いをする。俺を殺せば世界の終了として勝った奴の願いを叶える。これでいいだろう?」


「願いが多くない?」


「あくまでルールだ。お前たちのメモリーにルールが付いているのと一緒だろう?無理とは言わせないぞ。俺がルールに乗っ取っている場合、お前がルールに反したらしっぺ返しが来るんだろう?」


「やれやれ、そこまで知っているのね……。しょうがない、抜け道を作ってしまっていたボクが悪かった。その願い、聞き入れよう!では閉幕とする!」


 世界のルールが切り替わり、空に大きな闇が訪れる。

 その闇は地上をも包み込み、世界が大きく改変されていくのだった。

 こうして、【シャドウズ・オブ・ロンギング】は終幕し、混沌の世界が誕生したのだった。

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