第51話 金色のメモリー

「あぁ……。あ゙あ゙ぁぁぁぁぁぁっ……!」


 トーマの絶叫が虚無空間に響き渡る。

 フィールドの床を何度も何度も叩きつけ、大粒の涙を零し、水たまりを作る。

 

『フィールドが縮小します。点滅しているエリアは虚無空間となります。移動を開始してください』


 トーマにはモエのことを悼む暇もなく現実を突きつけられる。

 そして追い打ちをかけるかのように、モエのイミテーションが湧き、トーマに攻撃をする。

 トーマは無抵抗で殴られ、エリア外に転がる。

 そんなトーマをイミテーションは追撃することなく。

 縮小の時間が刻々と迫るのであった。


『トーマ!何をしている!』


 デバイスからの声にも反応しない。


『お前が優勝して、みんなを助けるんじゃないのか!お前はモエさんの想い、みんなの想い全てを無駄にする気か!』


「死んだ人間は帰ってくるわけがないだろ!目の前で死んだんだ!……なんで俺を……」


『……なら、優勝して確かめてみるんだな。少なくとも私は生き返った人間を見たことがある。……これ以上は何も言わないでおくとするよ』


 アドラからの連絡は途絶え、トーマはこぶしを握り締めて立ち上がる。

 ホルダーからメモリーを取り出し、左腕に装着する。


『セット、エンハンス』


 そして、フィールドが消失した瞬間トーマの姿が消える。

 それを見ていたゼロは勝利を確信すると残りのイミテーションが全て切伏せられ、消滅する。

 

「……大人しく、脱落すれば良かったと後悔させてやるよ」


「俺は……優勝してみんなを生き帰らせるんだ……!」


 ついにトーマとゼロの一騎討ちが開始される。

 トーマは【エンハンス】の力を持っている事でゼロを圧倒していく。

 もちろん、ゼロ自身もメモリーを使って攻撃するも、その差は大きい。

 ゼロはトーマの蹴りに対し、上手く攻撃を弾き、距離を取る。

 そして、ホルダーから金色に輝くメモリーを取り出す。


「前回のミッションで使わずにいたからな。出し惜しみはしない」


『セット、ゴールデンブースト』


 ゼロの身体が金色の光に包み込まれ、その輝きに目を失わないよう、両手で光を遮る。

 光が収まり、その姿を見ると白いデバイスの装甲が全て金色に変化しており、裏地が真紅の金色のマントと狼の爪を模した手足の装甲が輝く。

 トーマはその姿を見た瞬間、全身に寒気を感じ、距離を取るが、既にゼロが目の前に立っており、そのまま首を掴まれる。


「ぐっ……!?は……やい……っ!?」


「どうやらこのメモリーは時間制限が無いようだぞ?お前の【エンハンス】とどちらが強いか比べさせろ」


 首を掴まれたまま、トーマは地面に叩きつけられる。

 その威力は凄まじく、一撃で全身の装甲がバラバラにされ、デバイスのヘッドセット部分に亀裂が入る。

 頭から叩きつけられた事で脳震盪を引き起こし、動けずにいたトーマを上空へ放り投げ、落下の瞬間に合わせて右ストレートパンチを顔面に叩き込んで吹き飛ばす。

 それは圧倒的という言葉よりも一方的であった。

 何しろトーマは一歩も動くことすらできずに攻撃を受けていたのだから。

 トーマは薄れゆく意識に抗うことができず、意識が暗黒に沈み込む。


 §

 

「ここは……?」


 トーマは一面真っ白な空間に一人立っていた。

 全身の装甲が剥がれ、スーツのみの姿で立っており、一つの結論に辿り着く。


「死んじゃった……?やっぱりゼロに勝てなかったか……」


 トーマは悔しそうにその場に座り込み、頭を掻きむしる。

 すると、両肩に重みが伝わり、顔を上げるとモエとマサルが立っていた。

 重みの正体は彼等の手が乗っていたからだった。


「モエさん……っ!マサルさん……!ごめん……。俺……ダメだったよ……。何も……グズッ……なにもでぎながっだ……」


 大粒の涙をポロポロとこぼし、顔をぐしゃぐしゃにして泣くトーマに対し、二人は困ったような顔をするが、マサルはトーマの頭を荒っぽく撫で、モエはトーマを抱きしめる。


「大丈夫。まだトーマ君は死んでないよ?まだ戦える……!」

 

「そうだな。切り札を用意しているんだろ?今ここで使わずしてどうするんだ?」


「でも、ごごにいるっでごどば……!」


「トーマ!父さんの仇を取ってくれるんじゃなかったのか?」


 トーマはマサル以外の男声を聴き、顔を上げる。

 懐かしく、聴き慣れているその声のする方を見て目を見開く。


「父さん……!!」


「全力を出して負けるなら仕方がない!だが、それをせずに負けることは許さないぞ!」


「そうだな!このお方の言う通りだ!早く立ち上がって行くんだ!」


「トーマ君。あたし、頑張ってるキミのこと、大好きなんだよ?トーマ君が戦ってダメでも、あたしは恨まないし、あたし達のために戦ってくれたことをあの世で配信してあげるんだから!」


 トーマはそれぞれから応援を受け、呆然としていると、手足が光の粒子になって消えはじめた。

 優しく見守っている三人を見て、拳を握り締め、目に力を宿す。

 すると、白い空間にある声が響き渡る。

 

「つまらない。お前の父親の方がもっと強かったな」


 ゼロの声がすぐそばにあるような気がし、身構える。


「父さんを超えてみせろ。トーマならできるはずだ!」


「わかった……!行ってくるよ!」


 §

 

 白い世界が終わり、激痛で意識が戻る。

 ゼロに髪を掴まれている状態であり、トーマはそのまま両脚でゼロの腹部に蹴りを入れ込んだ。

 着地もままならず、フィールドに倒れるが、上体を起こしてホルダーから碧いメモリーを取り出す。


「……何のメモリーか知らんが、貴様に勝てる見込みは無い」


 メモリーを右手にセットし、大きく息を吐いた。


「大丈夫……みんながついてる……!」


『セット……。未確認のメモリー、チェック……エボリューション』


 トーマの身体が青白い光に包まれると同時に波動の様な衝撃がゼロを襲う。


「なんだ……!?この力……!」


 光が収まるとトーマの装甲が装着されており、通常の装甲と違い白金に輝いていた。

 スーツも濃紺だったものが漆黒の様な黒さを放ち、腹部には三日月の様なデザインが描かれていた。

 遠目で見ると兎獣人の度合いが高くなっており、頰に紅い紋様と頭や身体が動くたび煌めく紅い目から光の尾が伸びる。


「絶対に……勝ってやる……!」


 トーマとゼロの第二ラウンドが幕を開けたのであった。

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