第50話 合流
「トーマ君!」
突然呼ばれて振り返るとそこにはモエが立っていた。
彼女の装甲を見ると至る所が欠けており、ボディラインがよく見えるスーツの部分が占めていた。
彼女のスポンサーがファンか分からないが、彼女に対し、【剣】と【エンハンス】を提供していた様で、ここまで生き残れていた。
「モエさん……!無事だったんだね……!」
「トーマ君も、よかった……!これから、一緒に行動しよっか!いざとなれば、あたしのこのメモリーをトーマ君に渡せるし!」
「いや、【エンハンス】は制限時間があるから渡せないと思うよ?」
「え゙!?この強いやつ、使ったらダメなの!?」
「……少なくとも【バーサーク】以外で継続した組み合わせは見た事ない、ね」
モエがその事実を知り肩をがっくしと落としていると、怪物が二人を襲いかかる。
ダムで出会った上級怪物の様な動きをする怪物が五匹。
トーマは蹴り上げる体勢を構えていると右手を掴まれた。
「え……!?モエさん……?」
「大丈夫」
『セット、ウォーター。セット、エジェクト』
トーマの装甲が青色に変色し、右手に大きな砲身が装着される。
水を射出する力を増大させる形態である。
「モエさん、これ……」
「これはね、マサルさんのイミテーションを倒した時に手に入れたの。何かの縁かな?」
「……大事に使うよ!」
トーマは右手の砲身の径を絞り、全身に力を込めて放水を開始する。
高水圧と弾丸の様に射出する機能のおかげで【水】のメモリーの持ち味が生き、怪物を撃ち抜いていく。
トーマが三匹の怪物を倒した頃、モエも二匹の怪物を倒したところで倒れる。
【エンハンス】の時間切れだった。
それは事実上リタイアと同じ様なものである。
トーマですら魔力というものが無くなった時の症状では身動きが取れない。
それは移動を必須とするこのミッションでは致命的なものである。
息を切らし、仰向けになって寝転ぶモエのアバターが解除され、生身の姿となる。
「ゲームマスター!彼女はもう戦えない!リタイアさせるべきだ!」
トーマは虚空に向かって叫ぶが返事はない。
モエの身体が転送されるわけでもない。
それは【死ね】と言っているものである。
トーマはギリ……と噛み締め、彼女を守る態勢となる。
「絶対に死なせるものか……!」
そう決意して構えた瞬間、頭に箱がぶつかる。
「……アドラさんか。やっぱ痛ってぇぇっ!」
アドラからの贈り物でトーマは確信する。
ここで来た贈り物は切り札なのだと。
転がっている箱を拾い、蓋を開けると【杭】、【斬撃】そして【エンハンス】が入っていた。
素早く左手に【水】を付け替え、右手に【杭】を装着し、【エンハンス】をホルダーに仕舞う。
『セット、パイル。チェック、パイル アンド エジェクト。トランスフォーム』
トーマの右腕の装甲がパイルバンカーに変形し、ドラゴンの腹をも穿つ攻撃力を得た。
アドラはサポーター故に展開を読んでいたのだろう。
フィールド中央付近と思われる場所に巨大な怪物が出現し、同時に陣地が展開される。
全ての陣地が巨大な怪物に重なる様な配置となっており、何としてでも排除する必要があった。
モエを陣地の端かつ怪物の攻撃範囲外と思われる場所に置き、巨大な怪物に挑む。
既に他の場所ではゼロやイミテーションが怪物を攻撃している様で、ダメージを受けていると思われる怪物は無差別の範囲攻撃を仕掛ける。
その攻撃は衝撃波の様なものであり、事前に聴覚で攻撃を予想していた。
「『水の壁よ、我を守れ!』」
怪物の攻撃は水の壁によって大きく威力を減衰し、トーマには少し震える程度の振動のみ与えた。
そして、トーマは右腕のパイルバンカーを怪物に打ち立て、全身の力を込めて杭を発射した。
巨大な怪物自身はドラゴンの様な鱗を持っているわけではない為、パイルバンカーの威力に耐えきれず、水風船の様に破裂していく。
パイルバンカーを発射した事により、右手のメモリーが崩れ、再び【水】を差し替え、【斬撃】のメモリーもセットする。
ダムでのタワーディフェンスミッションの時と同じウォータージェットカッターが扱える様になった。
巨大な怪物の中から三体の怪物が現れ、トーマに迫る。
怪物を一撃で倒すとなれば他の怪物からもヘイトを集める形となる為、トーマは狙われてしまうのは仕方がない。
そうなっても、落ち着いていられるのは過酷なミッションをここまでこなしてきたからと言える。
三体の怪物は先ほどの上級怪物よりも強い個体の様で、彼らに連携というものが生まれていた。
しかし、それも虚しく怪物の背後から黒い影が現れる。
「ゼロっ!!」
トーマは前宙しながら水の刃を展開し、ゼロに放出する。
「空中なら躱せないだろっ!」
「……『岩の足場』」
トーマが切り付けるよりも早く岩の足場を出現させて、刃を躱す。
そして、トーマに向かって顎を大きく開き右腕を狙う。
非常に強い悪意にトーマの身体が反応し、水の噴出で自身の身体に回転を与え、ゼロに対して蹴りを当てた。
先ほどの仕返しと言わんばかりの威力であり、ゼロは吹き飛んだ先で膝から崩れる。
『残り十秒……九……八』
陣地のカウントダウンが始まり、探すものの、既に他の陣地はイミテーションが陣取っており、ゼロは吹き飛ばされた場所が運良く陣地であった。
そして、完全に残されたのはトーマであり、絶望する。
「やってしまった……!くそっ……!ここま――」
悔しさのあまりフィールドを殴りつけようとした瞬間、投げ飛ばされた。
何事かと自分の立っていた場所を見るとスーツのみのモエが立っており、ニコリと笑う。
そして、モエは怪物の爪によって腹部を貫かれ、もう一体の怪物によって両腕を引き千切られる。
『陣地外の者は虚無空間へ送られます』
「モエーッ!!」
モエはそのまま笑顔を崩さず、暗黒に飲み込まれていったのであった。
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