第46話 怒りに蝕まれる

「え……。俺のサポーターが助けに行ったって……」


「私がそのサポーターだよ」


 トーマの頭が混乱し、髪の毛を掻きむしる。

 アドラは混乱しているトーマに対し、真実を告げていく。


「君のお母さん、ミヤコさんは新人類の実験体にされ、失敗してしまったようだ」


「う、嘘だ……。母さんは……どうして……!?」


「そして、ミヤコさんを殺させたのは私だ」


「!?」


「アドラさん……っ!」


 トーマはアドラの首を絞めながら壁まで押し込む。

 アバター体のトーマの目は血のように紅く輝き、頬に赤い模様のようなものが浮かび上がってくる。

 怒りによってトーマはそのままアドラを絞め殺そうとした瞬間、モエとノナに止められる。


「と、トーマ君……落ち着いて……!」


「落ち着けるものか……っ!!母さんを……よくも母さんを殺しやがってっ!!」


「アドラさん……本当のこと……言うんですか……?」


 ノナは心配そうにアドラに訊くと、コートの襟を直しながら、立ち上がると再び口を開く。


「……すまない。お母さんは失敗作となり、そして人を襲い始めた。そうなると、早急に対処しなければならなかった。そして……私は君に母親を殺させた」


「……はぁ?……え、俺が……?母さんを……!?へ……へへ……そ、そんな冗談……」


 トーマはアドラから告げられた真実に錯乱し、その場に座り込む。

 アドラは再び膝をつき、頭を下げる。


「本当にすまなかった」


 その言葉がトーマに重くのしかかる。

 自分の手で母親を殺した事を裏付けていた。

 そして、トーマはアドラを殴り飛ばし、壁に叩きつけた。


「アドラさん!?」


「トーマくん!落ち着いて!」


「落ち着いているさ……。なんで……なんで知ってて俺に……母さんを殺させたっ!!」


 アドラは頬を摩り、抵抗の意思は一切見せなかった。

 それでも、トーマの疑問には回答する。


「……君は、ミヤコさんが人を殺すところを見たいか……?違うだろう……?ミヤコさんは、人殺しをするくらいなら……いや、憶測にすぎないか……」


「あんたが……今まで俺をサポートしてくれていたことは感謝する……。だけどっ!憧れてた獣人が……こんな事を俺にさせるなんて思ってなかったっ!絶対に許すものかっ!!」

 

 トーマはモエを振り払い、再びアドラに攻撃しようとした瞬間、ノナが二人の間に立つ。

 先ほどと違い、ノナの瞳は今のトーマと同じように紅く煌めき、頬に紋様が浮かび上がる。


「落ち着いてください……!私はあなたを傷つけるわけにはいかないし、これ以上アドラさんを傷つけられる訳にもいかない……。お願いです……。話を聞いてください……!」


 ノナの瞳を見て、段々と敵意を剥き出しにしてくる彼女にトーマは怯む。

 グルグルと唸りをあげ始め、ノナの毛が逆立つ。


「ノナ君、落ち着いて」


 アドラはノナの肩を掴み、落ち着かせる。

 逆だった体毛は重力に逆らう事をやめ、瞳の煌めきと顔の紋様が消えていった。


「君が戦闘態勢に入ると確実にトーマが死んでしまう」


「そんなの、やってみないと分からないだろっ!!」


「やらなくても分かるさ。君はニンゲン。ノナさんは月兎という神と同じ力を持っているのだから、その力の差は歴然だ」


「神って……そんな嘘に騙されるわけ――」


「ゲームマスターと呼ばれる人間は新人類ってのは知っているだろう?あれも、神の力を持っているんだよ」


 トーマはゲームマスターが新人類だと言う事は気付いていたが、神の力というものに疑問を持つ。


「……神っていうなら、こんな番組もしないんじゃないのか?」


「違うさ。神ではなく神の力を持った人間だよ。そして、私たちは神の力を持ったニンゲンになれなかったもの。形は違っても、本質は彼らと変わらない。神の力を使うためには、莫大なエネルギーが必要だ。例えばこんな物だな」


 アドラはポケットから青く輝く石を取り出す。

 それはトーマの持っているエリクシルの欠片と酷似していたが、アドラの持っているものは非常に小さかった。

 トーマはホルダーからそれを取り出し、床に置く。

 また欠片が一つ増えており、不思議に思う。

 アドラは1番大きな欠片を持ち、頭を下げる。


「これがミヤコさんだ」


「これが……母さん……!?」


「ゲームマスター……新人類はその数を増やす事を目標としているが、もう一つ目的がある。それがこの石からエネルギーを取り出すためだ」


 ノナは箱のような金属の塊を床に置き、ミヤコと思われる石を上に乗せる。

 そして、祈るように手を合わせると、石が発光し、光が部屋を包み込んだ。

 トーマが目を開けると宇宙のような空間が広がり、見慣れた姿を発見する。


「母さんっ!」


「トーマ……!」


「やっぱり、死んでるなんてウソだったんだ……!」

 

「いいえ……お母さんは死んでいるわ。ごめんね、ひとりぼっちにしてしまって……」


 母親から死を告げられ、呆然とするトーマ。

 ミヤコはトーマを優しく抱きしめ、涙をポロポロと零す。


「お母さんが、人を殺す前に、トーマに殺してもらって良かった……」


「嫌だよ……!どうして母さんが死なないといけないんだよ!」


「お母さん、入っちゃいけないところに入って、新人類様に捕まって、実験台にされたの。トーマも気をつけなさい。彼らに逆らってはダメよ……。モエさんによろしく言っておいてね……。愛しているわ、トーマ……」


 ミヤコはトーマを抱きしめたまま、光の粒となって消えていった。

 そして、宇宙のような空間は自宅のリビングに戻っていき、トーマは泣き崩れていた。

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