第45話 獣人探偵と顔合わせ
トーマが目を覚ますと、料理の音と美味しそうな匂いが部屋に充満していた。
自身以外料理をできる人間が母親しかいないため、跳んで起きる。
「母さん!帰ってたの!?」
小走りでキッチンに向かうと、そこには全身茶色の毛皮で、大きなたれ耳を持ったウサギの獣人の女の子が料理をしていた。
「うわぁ、じゅ、獣人だ……」
「おはよ!……でもその反応は心外だな。だってキミ、獣人にあこがれているんじゃないの?」
「そ、そうだけど……」
トーマは彼女の姿を上から下までじっくり見ていると、もじもじとする。
どうしたものかと顔を見ると、暑いときに襟口から空気を入れるように服をボフボフとし、少し恥じらいを見せていた。
そんな仕草と表情で胸が高鳴り、視線を外した。
心を落ち着かせようと深呼吸をしようと息を吸った瞬間、トーマの身体から力が抜ける。
「あ……れ?」
トーマの心臓が異常な速さで脈を打ち、全身が熱くなり、下腹部に違和感を感じる。
今まで経験したことのないほどの活力であり、落ち着かせようとするが、甘い臭いを吸う度、強烈な刺激に襲われる。
やがてトーマの体に我慢の限界が訪れる。
「……ノナ君。キミはなぜ彼を拷問しているのかな?」
「えっ!?あ……ごめんなさい!そんなつもりはなかったの!ただ暑くて、仰いだら……」
「アドラさん、ノナさんは何をされてい――」
「ダメ……っ」
トーマは三人が見ている場所で果ててしまうのであった。
あまりの光景にアドラは額に手を当て、ノナは急いでトーマを浴室へ運び、モエは初めて見る光景に赤面するのであった。
事が収まり、茫然としているトーマに対してノナは平謝りをする。
話の内容がほとんどは理解できるようなものではなかったのだが、どうやらウサギの獣人には異性を発情させるニオイを発するということ。
人間にも一応有効なのだが、大抵は激痛を伴う。
トーマが痛みを感じなかったのはアバター体であったことで獣人とほとんど同じ体であったためらしい。
それはそれで今度はノナの身体が危なかったのだが、何事も無く終わる。
いつまでも落ち込んでも仕方がないと感じ、トーマは顔を上げる。
目の前にはイヌの男性獣人とウサギの女性獣人の二人が座っている。
父の遺影代わりの写真に写っている二人であり、アドラとノナだった。
「さて……どこから話せばよいのかね……」
「とりあえず、第四ミッションお疲れ様!」
ノナは食卓に大量のごちそうを並べると、モエの腹の虫が騒ぎ始める。
「あ、あはは……おなかすいちゃった……!」
「モエさんは食べてていいよ。アドラさん……。父のことについて聞きたいのですが……」
「トールのことだね?何が訊きたい?」
「なんで死んだのか……。アドラさんが殺したんじゃないかって母さんが……」
アドラとノナはトーマの質問に顔を合わせて頷く。
再びアドラはトーマの目を見つめるが、その目は非常に真剣なものであり、固唾を飲み込む。
「トールを殺したのは、キミも薄々気づいているのではないかね?【シャドウズ・オブ・ロンギング】の参加者、ゼロこと桜井零。私はイクシードの社長から依頼を受け、情報や人材を横流ししている人間がいるから探し出してほしいとね。その中で調査をしているとキミの父、トールと出会ったんだ。もちろんはじめは警戒されたが次第に打ち解けて、私もこの姿を見せるようになった。彼も調査に協力してくれ、桜井零を追い詰めた。そして、奴はインスタントビースト剤を多量摂取し、自殺まがいの暴走をし始めた。私が呪文を使って拘束しようとした瞬間にトールが私を庇うように割って入り、抵抗してくれたが、そのまま殺されてしまった。表向きは建設現場での事故となっているが、本当の理由は桜井零により殺されたということだ」
トーマはあの時、桜井零がハヤトの父親を殺した時に感じていたことと、アドラの口から語られる真実と合致し、納得がいくとともに沸々と胸の中が熱くなり、ドロドロとしたものを感じた。
一呼吸置き、トーマは再び質問する。
「ゼロ……桜井零がイクシードにとって不利になるようにしていたのは……?」
「うん。彼の家族が全員イクシードの社長の事故によって死亡しているんだ。まあ、本当かどうか判らないところもあるが、他の社員に対して何もしなかったところを見るに、断定せざるを得ないといったところだね」
桜井零のしたことは、許せるものではなかったが、彼の生い立ちを考えるとトーマも一方的に桜井零のことを恨むわけにはいかないとも思ってしまう。
どこにもやりようの無い怒りに戸惑う。
そんなトーマにノナは頭を撫でる。
「大丈夫です!トーマ君のことは私たちが責任をもって守りますからっ!」
「そんなことを言って……それより、キミには謝らなければならないことがある」
トーマは改まった様子のアドラを見て首をかしげる。
そして、両ひざをつき、左手だけ前を出して頭を下げる。
東の国に古くから伝承されている土下座というものであった。
なぜ左手だけなのか、すぐに分かった。
右腕は存在せず、袖は力なく垂れていた。
「キミの母親を助け出すことができなかった」
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