第44話 逆転には……
トーマの攻撃により、ダムの貯水湖は凍り付き、水の怪物も例に漏れず凍り付く。
完全に攻撃が止まり、両ひざをつき、肩で息をする。
「と、止まった……!これで……時間切れまで待機すれば……」
『プレイヤー:ゼロがレイドボスを単騎撃破しました。順位はこちらになります』
一位:ゼロ……一二五〇ポイント
二位:トーマ……二五〇ポイント
三位:モエ……二五〇ポイント
ハヤト……死亡
ミユキ……死亡
トーマはゼロがレイド用怪物を単独撃破したと聴き、絶望する。
このまま時間切れまで粘ったとして、次回のミッションでポイントを逆転することができないからだ。
それぞれのミッションポイントはほとんど固定であり、常に一位を取り続けていたゼロに追いつくには、今回と次のミッションで一位を取ることが最低条件であるからだ。
トーマは視線を貯水湖に向け、脚に力を入れる。
太ももの筋肉が膨張し、跳躍を開始しようとした瞬間、樹脂製の箱が頭に直撃する。
この提供の仕方にトーマは焦っていた感情を少し落ち着かせる。
箱を開けると中には【火】と書かれたメモリーが入ってあった。
「……火は氷を溶かすじゃん!?それに、水には相性が悪いよ!?」
『それは使い方次第だね。積乱雲の作り方、中学校で学んだのだろう?高校でも、成績優秀だと聞いているよ』
「俺のサポーター……!?母さんは!?」
『すまない、時間が無いから早く倒すんだ。火で氷を空に運び、お互いをぶつけ合う。キミなら出来るはずだ』
トーマのサポーターはそれだけ告げると一方的に通話を切る。
「……ぶっつけ本番で、一撃で仕留めろ……かぁ」
トーマは右手に【水】と【風】、左手に【火】のメモリーを装着する。
『テトラエレメンタル……チェック。テトラバースト:ライトニングボルト』
三つのメモリーはうまく噛み合い、雷撃という魔法に変化し、両手を前に差し出して詠唱を開始する。
サポーターの言う通り地表、水面を【火】の力を利用し、温めていく。
もちろんそんなことをすれば水の怪物は息を吹き返すのだが、高温の水では動くことが難しいようだった。
トーマは反撃が来ない事に安心し、さらに加熱し、沸騰させる。
高温の空気は空へと昇っていき、だんだんと冷やされて雲を形成した。
それだけでは色々足りない為、上空の空気を氷点下まで下げ、地上では更に高温の水蒸気を発生させる。
メモリーの力による雲の形成は、ほんの三秒。
真っ黒で大きな雲が貯水湖の上空へ座る。
「『天空に轟く雷鳴よ、その閃光は全てを打ち砕かん!』」
詠唱を終えた瞬間、トーマは耳を塞ぎ、地べたに伏せる。
そして、閃光が一度、耳を塞いでもなお鼓膜を破るほどの轟音と衝撃がトーマとモエをダムの擁壁から吹き飛ばした。
トーマが目を覚ますと、会場であり、歓声が巻き起こる。
何事かと周囲を見渡すとモエが泣きながら抱きしめてくる。
トーマは既にアバターが解除されており、生身でモエに触れていることもあり、顔を真っ赤にする。
すると奥からゲームマスターがパチパチと拍手をしながら近付き、トーマの正面に座る。
「いやぁ、ボクの呪文でも【元に戻らない】かと思ったよ!ミッション終わって皆を【飛ばしたら】キミだけ重傷なんだもん。さあ、結果発表するから早くアバターに変わってね?」
「あ、はい……トランス・オン」
余程酷いダメージだったのか装甲は現れず、スーツも至る所が破れており、ウサギ獣人の毛皮が露わになっていた。
ゲームマスターがモニターを呼び出し、両手を広げる。
「さあさあ、みなさんお待ちかね。結果発表だよー!いやぁ手に汗握るミッションだったねー!……では、モニターにご注目!」
ミッション:タワーディフェンス リザルト
一位:トーマ……五四五〇ポイント
二位:ゼロ……一ニ五〇ポイント
三位:モエ……ニ五〇ポイント
「今回のミッションのトップはトーマ選手だぁっ!そして、総合ポイントの発表と行くよーっ!」
総合ポイント
一位:トーマ……三二〇ポイント
二位:ゼロ……三〇〇ポイント
三位:モエ……一〇〇ポイント
「いやいや〜トップ争いは凄いね!レイド用怪物を単独撃破するのもそうだけど、二人は忌み嫌われている獣人フォームって事がポイントだね!モエちゃんも、まだ諦めちゃだめだよ?トップ二人がリタイアして、一人でクリアすればポイント関係なく優勝できるからね?」
「そんな優勝の仕方でも良いのですか?」
「もちろん!ポイントはあくまで順位付け。願いを叶えたければ生き残らなきゃ意味がないからねー」
「あの……!俺のポイントが一気に貯まったのは何でですか?」
「それはね、キミが倒したレイド用怪物は元ネタが精霊なんだよ。でも、本当にキミは凄いよ!ドラゴンスレイヤーだけじゃなくてスピリットスレイヤーも成し遂げるんだから。君なら新人類にもなれるかもねー!」
トーマが倒した怪物が精霊に近い存在だと聴き、納得がいった。
あの怪物は『水そのもの』であり、メモリーによる状態変化以外の攻撃を引き付けなかった。
ゲームマスターがそう言うのであれば精霊という存在はあるものだと結論づけられる。
「おい、早く帰せ」
「もー!ゼロ君はせっかちでコミュ障なんだから!それじゃあ、オーディエンスの皆様!また次のミッションをお楽しみに〜!」
ミッションの終了とともに、トーマとモエは家に【飛ばされた】。
疲労感に襲われ、トーマはソファに倒れ込み、そのまま意識を泥の中に沈めていったのであった。
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