第35話

 感動にむせび泣く軍人が多い中、いつも通りドライな、少しだけ眠そうな顔をした友人が部屋に入ってきた。――フェリだ。


 コーヒー片手に、「お疲れ」なんていつもの口調で言われて。緊張が解けて椅子の背もたれに身体を預け、モニタを見た。

 モニタには、人工衛星からリアルタイム送信された、溶解した母体マザーの姿が映されている。そしてそこから這い出てくる、一人のファウストの姿を見て、ふぅ、と一息ついて友人の方に向き直る。


「それにしても、本当に大気圏越えの終端誘導なんて出来るものなのね」

「アンタが頼んだんでしょうが。……でも、私も驚いたわよ」

「どうして?」

。終端誘導プログラムがね。私はそれをちょっと修正してシミュレーターを組んだだけ」


 呆れ顔で言われ、「え、」と声が漏れる。

 隣に座るスクルドを見たが、首を横に振られた。流石に知らなかったようだ。


「……廃棄された人工衛星を地上の目標物に落とすためのプログラムでしょ? なんでそんなのがあったの?」

「さぁ? 大昔に変なこと考えたお偉いさんが強権振るって無理矢理情報科に作らせたんじゃない? ね」

「……親近感沸くわ」

「馬鹿は一人じゃなかったってことね」

「誰が馬鹿よ誰が!!」

 部屋に、笑い声が響く。


 どたばたと走り回る人の足音が、廊下から聞こえてくる。歓声が、叫び声が、防音壁を貫通して聞こえてくるほどだ。


 ――私達は、勝ったのだ。

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