第33話
落下する、それは。
『あれ、人工衛星じゃねえか……?』
指揮個体の誰かが呟いた。
なるほど、あれがか。
アグレッサーはそれを初めて見た。なにせ、目で見えぬほど高くに打ち上げられているものだからだ。
それはファウスト達の戦場を空からじっと眺め、
だが、何故かそれが、空から落ちてきている。
どうしてか。
――少尉に、決まっている。
作戦の要たる、
「ははっ」
思わず、笑い声が漏れた。
動けなくなった
先程は、防御姿勢を取るために肉体を急激に変性させたことで無理が生じたか、
まるで、宗教画か何かのようだ。
燃え盛る炎が、空から降ってくる。
それに必死で手を伸ばす、山よりも大きな巨体――
触手をものともせず落下したその衛星は、
ファウスト達は、立っていられなくなり、座り込む者までいる。
しかしアグレッサーは、立っていた。
立てる者も、座り込む者も、皆がじっと、空を眺めていた。
2つ目。
3つ目。
4つ目、5つ目、6つ目――――
いくつもの炎が、空から
地球の重力から自転まで完璧に計算され落下する、壊れた無数の人工衛星たち。
アグレッサーは、戦場で、敵前で、はじめて刀を落とした。
あまりの現実味のない光景に、頬が緩む。
「――――馬鹿だろ」
――
一撃目で威力を知ったか逃げようとする
『あっはっはっはっは! 死ぃねぇええええええええ!!!!!!!!!!!!』
楽しそうな少尉の声だけが、無線機越しにはっきり聞こえる。
――あぁ、違ったか。だけじゃ、ない。
「はは、はははははは」
釣られて笑うアグレッサーを見ている、誰かは。
『あははははは!! 何これ馬っ鹿じゃないの!?
――名前も知らぬ、誰かは。
楽しそうに、笑っていた。
まるで、仲間たちと戦場を駆けていた、昔を思い出しているかのように。
『はーい、感傷に浸ってるとこ悪いけど、アグレッサー』
個別通信に切り替わったのが分かった。どうしてか、と聞き慣れた女性型ファウストの方角を見ると、こちらに向かって突っ込んでくる装甲車が一台。
――まさか、と頬がピクリと震えたが、目の前にドリフト駐車したその装甲車には誰も乗っていない。無人操縦だ。
「俺は、何をすればいいんですか、少尉」
『今の
「……でしょうね」
無数の火の玉の直撃を受けている
恐らく、威力自体は先程の艦砲射撃より低いであろう。重力落下という目に見えるほどの低速で、かつその落下物が大気圏突入によって燃え盛っているため、破壊力以上に目を引いてしまう。
アグレッサーや、他のファウストがそうであったように、みな一様に空を眺めている。
しかし言葉でなく、装甲車が返事をしてくれた。パカリ、と上部ハッチが開かれたのだ。そこには
「おいまさか――」
口調も崩して、アグレッサーは頬をぴくぴくと震わせた。
『そのまさかよ』
「これを考えたのは誰だスクルド。ぶん殴ってやる」
『アサミ大佐よ』
「…………」
流石に上官を殴る決意を固めることは出来なかったか、アグレッサーは大きな溜息を吐いて、刀の柄を額に打ち付けた。――まるで、痛みで自分を罰するように。
『先程の艦砲射撃で、コアの位置を特定しました。――誘導はこちらにお任せ下さい』
「……あの、少尉」
『大佐です』
「…………あとで文句だけは言わせてください」
『えぇ、お互い生きて帰ったら、飽きるまで聞いてあげます!!』
ぶおんと、装甲車が張り切ったようにエンジンをふかす。
――そんな、誰しもが馬鹿だと笑うような作戦を一人だけ知らされたアグレッサーは。
「ははっ、……懐かしいな」
そう、呟いた。
ないはずの記憶を、呼び覚ますように。
装甲車に飛び乗って、ワイヤーアンカーを腰のアタッチメントに装着する。――ご親切に、ちゃんと互換性があるものだ。
「準備完了、いつでもどうぞ」
『了解! ご武運を!!』
遠隔で起動された対空ミサイルに、燃焼材の火が灯る。
――して、
目立たないよう地表とほとんど同じ色に塗装された対空ミサイルは、
火薬による爆発はなく。
――しかし、それ以上に恐ろしいものを、連れて。
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