第24話
「お邪魔しまーす」
欧州方面軍情報科――フェリの居る情報処理室の扉を開け、薄暗い部屋に声を掛ける。
数名――といっても死にそうな顔をした3名ほど――がこちらに顔を向け、知り合いではないな、と作業に戻った。
奥の方で作業をしていたフェリを見かけたが、どうやら声が聞こえなかったか、こちらに顔を向けないので、自分から近づいていく。
「フェリ」
「へぁっ!? な、何っ!? ……ってアサミじゃない、おかえり。急にどうしたの?」
「相談」
「今?」
「今すぐ」
「あー……」
3面ディスプレイに大量の英字が並んでいるパソコンの方に視線をやったフェリは、諦めたような口調で「離れます」とだけ同僚らに告げ、私について部屋を出た。
情報処理室のすぐ外には、休憩所であろう小部屋があったのでそこを借り、眠そうに、明らかに疲れた様子のフェリをソファに座らせ、隣に座る。
「で、どうしたの?」
「統合本部に来ないかって声掛けられてて」
「…………なんで?」
「知らないわよ……」
なお、統合本部とは、その名の通り欧州方面軍全ての兵科の上にある存在だ。
何をしてるのかは全然知らない。関わる機会なかったし。
「えぇっと……待ってね頭回んない。統合本部ってあれよね、最上階の……」
「そうなの?」
「……あぁ、やっぱそうだ。この端末じゃあんま調べらんないけど、所属は7人居るわね」
「少なくない……?」
フェリは眼を擦りながら『ノイド』を開くと、軍のローカルネットワークに接続する。
統合本部がなんの仕事をしてるか知らないけど、1桁しか居ない兵科なんて情報科くらいしかないものだと思っていた。その次に少ない指揮科だって100人以上は居るんだし。
「たまーにウチにも統合本部からの指令書は来るのよね」
「どんな内容?」
「えーっと……前は工廠科関連だったと思うけど、私の担当じゃなかったのよね……」
「工廠って……ファウストの製造関連?」
「あとは武器兵器もそっちね。たしか、遺伝子の配列がどうこうって話だったと思うけど、」
「けど?」
「……ファウスト関連の研究は、基本的に私ノータッチなの。新人だからね。だからごめん、力になれないわ」
「…………そう」
頭をコクリと落としたフェリは、もう今にも眠りそうなほど声がか細くなっている。
こんな状態で仕事してるとか信じられないけど、それだけ忙しいことがあるのだろうか。まぁ普段から忙しそうではあるんだが。
このまま寝せておこうかとも思ったが、フェリが「連れてって」と凭れてきたので、背負うようにして情報処理室に押し込んだ。背は私より高いが、体重は軽いのでなんとか運べた。
結局何も分からなかったので、少しだけ一人で悩み、こういう時相談出来る友人――そうスクルドみたいな同性が居れば――なんて考えてしまい、一人落ち込んだ。
彼女は、非戦闘用モデルであっても人ではない。友人のような対等な関係には、決してなれないのに。
それに、もう会う機会も、きっと――
中佐の執務室に戻り、返答を伝える。
私の人生は、きっとそこが転換点であった。
その選択をしなければきっと、あの将来はなかったであろう。
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