第23話
「お、おかえりアサ
「……はい、存分に
第2エデンに帰ると、その日のうちに一日分のスケジュールが抑えられた。最初に私を呼びつけたのは、自治区に送り付けた元凶である、名前も忘れたクソハゲ中佐。
「あ、あちらでは大した仕事はなかったようだし、いつもの指揮もなかったから、ね。少しは休めたようで、よかったよ」
私の気も知らないで――と返したい気持ちを必死に抑え、頷いた。
――まぁ実際のところ、今回私は何もしていない。
到着日の襲撃――これはアグレッサーが勝手に撃退した。私は縮こまってただけだ。
自治区に派遣された理由でもある避難民選別や防衛指揮は出来なかったし、
その後の自治区との交渉だって、本交渉は幕僚長がしたのでほとんど黙っていた。
じゃあ何をしていたのかと言われると――実際、書類に残ることを何もしていない。無知蒙昧な秘書を処分したのだって、慣れたものと副代表が揉み消してくれたし。
ちょっと気苦労が増えて、ちょっとファウストのことが知れた。――ただ、それだけ。
「じゃ、じゃあ、次の仕事についてなんだけど」
「はい」
「……き、希望は、あるかな?」
「え?」
思わず、聞き返した。
中佐は書類とタブレットを見比べ――老人世代は何故かデータを紙に出力したがる――私に目を向けることなく問うてきた。
意図が、分からない。希望? なんのだ?
「こ、今回の自治区のように、現場指揮官の道に進むでも、良い。か、簡単に階級が、上がるよ。ま、前みたいに、
「…………いえ、全く。幕僚長とは通信越しに挨拶した程度です」
「うーん……? じゃ、じゃあ、なんでだろうなぁ」
「私が聞きたいくらいです……」
幕僚長顔怖いなぁとか考えてたくらいで、本当に雑談なんてしてない。二言ほど話した程度で、なんで私が呼ばれるかはまったく、これっぽっちも心当たりがない。
ひょっとしたらアグレッサーに聞こえている声が関係しているのでは――そう考えたが、杞憂だろう。交渉中にアグレッサーのアの字も出なかったし。
「ま、まだ、内示でもないし、君の希望を聞いてから――ってことになってるから、どうしたいのかな、と」
「……ちなみに、考える時間は」
中佐は、手にした紙を凝視――目が悪いのか老眼鏡を使って――なら拡大表示出来るタブレットで見ろよと突っ込みたい気持ちを抑え――、うん、と頷く。
「きょ、今日中だね」
「…………」
「じ、時間は19時らしいけど……」
時計を見る。現時刻は17時半。
午前中には到着予定だったんだけど、第2エデンが予定航路から少しだけ離れたところに居たようで、到着が半日ほど遅れていたのだ。
「あの……ホントにあと1時間半で決めるんですか?」
「う、うん」
「……ちょっと友人に相談してくるので、離席しても良いでしょうか」
「あ、あぁ、うん、大丈夫。じ、時間までには、戻って来てね」
「畏まりました。では、失礼します」
その時の私は、きっと苛立ちを隠せない表情をしていただろう。
カツカツと、軍靴がいつもより大きな音を立て、部屋を出た。
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