第15話
「襲撃犯は79。ベオウルフからの報告では、全て殺したとのことです」
アグレッサーはそう説明した。あまり広くない居室に分隊員全員を集めるわけにもいかなかったので、部屋にはアグレッサーとスクルドだけを残してある。
「……全員、ですか」
「はい」
「情報を聞き出したり……」
「我々はそのような訓練を受けてはおりません。少尉に拷問の心得があるようでしたら、今後は数名残すように命令しますが」
「い、いえ、ありません。結構ですっ!」
半死半生の死に損ないを拾ってきたアグレッサーに、冷たい声で「好きにしてください」と言われるところを想像し、慌てて首を振って断った。
確かに、情報を聞き出せないのであれば全員殺すというのは正しいのかもしれない。これからの関係を思うと最悪の選択ではあるけれど。
「理由とかは、やっぱりその……
「そうですね。我々のことを知らないにせよ、ファウストに守られた尉官を殺しに来るにしては随分と軽装かつ少人数でしたので、護衛を数名殺してこちらが上なんだと脅す、くらいを想定していたものと思われます」
「アグレッサーを殺しに来るなら、迫撃砲くらいは持ってこないとねぇ」
スクルドが優しい笑みでとんでもないことを言うのでそちらを見ると、珍しくアグレッサーが苦笑する。表情は変わらないけど、穏やかな雰囲気だ。人死んでんですよ?
「このビルを崩されたら、俺たちはともかく少尉は死ぬだろうな」
「でもアグレッサー、アサミ少尉を抱きかかえて窓から飛び降りるくらい出来るでしょ?」
「…………まぁ、たぶんな」
「出来るんですね……」
ちょっと想像したくないんだけど、6階って結構高いのよ。普通に窓から入ってくるあなたちには想像出来ないかもしれないけど、紐無しでバンジージャンプするようなものじゃない。絶対漏らすわよ私。
ちなみに先程、アグレッサーは窓伝いに上の部屋から入ってきたらしい。階段使おう?
「……これで、格付けは終わったのでしょうか?」
一応聞いてみたが、困った顔を返すスクルドはアグレッサーの方を見、首を横に振る。
「
「あの、私もう帰りたくなってきたんですけど……」
「……俺たちにそれを止める権利はありませんが、自治区を出るのであれば護衛の範囲外ですので、そこはご了承下さい」
「やっぱ出てくのやめますね」
正直、今この状況で一番安全なのはアグレッサー達と離れないことだ。なんなら部屋も一緒の方が良い。そのくらいは分かっている。
ここに来るまでに利用した輸送船団は、欧州方面軍所属のものだったので、私の他も軍人が多かった。ファウストより軍人の方が多かったくらいだ。だから安全といえば安全だったが、ここは違う。
軍人なんてほぼ居ない。相談相手は、不愛想なファウストだけ。
書類上はこの自治区にも欧州方面軍から100人くらいは軍人が配属されてることになってるけど、リストから一括送信したメールに一通の反応もなかった。殺されてるのかサボってるだけなのかは知らないが。
「これまでの経験上ですが――」
「スクルド、何か分かるんですか?」
「はい。私はアグレッサー達と違って内地の勤務が主ですから、人と関わる機会も多いんです。これまでの経験からして、次は銃撃戦にはならないかと思います」
「となると情報戦、……いや、この場合は舌戦、ですか?」
スクルドは頷いた。どうやら、少しは安全に職務をこなせそうだ。
――そう思ってた時期が、私にもありました。
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