第24話

「戦闘開始!」


 ファルケの号令によって、至る所に潜伏していたセルウィーらは一斉に駆けだした。

 目標は製造工場を守る数千体ともいえるグレムリンだ。

 こちらを目視出来るにも関わらず先制攻撃をしてこなかったが、銃口を向けられ弾丸を食らうと、一斉に反撃を開始する。

 だが、それと戦うのは一騎当千の兵士達。恐らくこの国で最も高い戦闘能力を持つ集団が、出し惜しみせず弾丸を吐き出した。

 開けた駐車場に、一切の遮蔽物はない。だが、そういう時に壁になるのが役割の前衛が居る。彼らは巨大な盾と人より大きな駆動鎧を駆り、皆の盾となるよう動く。


 ――異常なのは、盾も無しに、前衛も無しに誰よりも速く走る二人の姿だ。


シェリーとファルケの二人は、自分に向かう銃口を、放物線を描いて飛んでくる榴弾を、一つ選択を間違えるだけで即死する弾丸の雨を潜り抜け、少しずつグレムリンを削っていく。


『やるじゃない!』

『ファルケも!』


 銃声鳴り止まぬ戦場で声を飛ばす無線機が、二人の声を耳元に届ける。

 二人は、相方がどう動くか、敵がどう動きどう弾が飛んでくるか、まるで予知でもしているかのように駆け抜けた。


 そんな二人に触発されたか、仲間の盾の陰から飛び出した男が居た。――レイだ。


『ちょっとレイ!?』

『うぉおおおお!!!』


 レイの反射神経は、かたや予知じみた予測、かたや並外れた適応能力によって弾丸を回避しているファルケやシェリーと比べてもずば抜けている。

 そして、その特性を生かす駆動鎧は、人体には決して到達出来ない速度を彼に与えた。


 ――自分に向け飛翔した大口径の弾丸を、切ったのだ。


 レイはブレード片手に、機関銃のような密度で放たれる弾丸の軌道にブレードの刃を合わせ、その悉くを切り刻んでいく。

 刃を形作る高密度のマナ粒子は弾丸の運動エネルギーを全て吸い取り、弾丸を形成する金属を蒸発させる。前時代、マナの存在を前提としていた時代に作られたその剣は、今ここで真価を発揮した。


『皆! レイを援護! いつも通りにね!!』


 クレアは仲間にそう指示した。レイが置いていった狙撃銃を片手に、レイを狙うグレムリンを盾の陰から一体ずつ処理しながら、彼のことをじっと見る。


(もう、遠くに行かないでよ)


 その言葉は、通信には乗せない。決して、口には出さない。それがクレアの決意だから。


『シェリー、ぶち抜いて!』


 回転式拳銃の間合いまで近づいたファルケは、しかし密度の上がるグレムリンを突破出来ないでいた。

 いつも通り襲ってくれれば対処も出来るのに、グレムリン達は製造工場の外壁から一定の距離を保って離れようとしないからだ。そのせいで、穴を作ってもすぐに埋められる。


『弾痕から計算するに、壁はジェラルミン製40ミリ。出力27まで上げて良いよ』

『わかった』


 弾丸の雨の中、司の指示通りに電磁投射砲の出力を上げたシェリーは、弾丸を回避するためスライディングした姿勢のまま銃口を壁に向け、引き金を引いた。


 ――瞬間、弾丸の通り道にあった空気が消失し、ビーム砲の輝きがグレムリンごと壁を焼く。


『ってええええい!!』


 弾丸が通ったグレムリンの包囲にも壁と等しく穴が開いたが、その穴は人が通れるほど広くはない。

 だがファルケは、グレムリンと組手格闘が出来るほどまで出力が上げられた駆動鎧の膂力を発揮し、進路に立ち塞がろうとしたグレムリンごと壁を蹴り飛ばした。


『うっわー』


 司の声が漏れる。これが聞こえるのは、シェリーとファルケだけだ。

 ファルケが蹴り飛ばしたグレムリンはシェリーの開けた壁の穴を突き破り、ちょうど人が通れるほどの大穴となる。


『入るわよ!』

『うん!』


 警備担当のグレムリンは、守るべき製造工場に向けて発砲出来ない。故に、建物に入っていく二人を止めることは出来なかった。

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