第15話
弾丸飛び交う戦場で誰よりも目立つ、一人の女が居た。
女は赤茶けた髪を流し、全身を仲間の血と
名をエレイン・ノア。
彼女は生まれつきセルウィーと呼ばれていたわけではない。帝国に併合された小国が抱えていた部族が一つ、ドゥルイットと呼ばれる褐色人種の出だ。
ドゥルイットの住んでいた国は、子供達を残して皆死んだ。併合とは名ばかりの絶対服従を求める帝国に対し抵抗を続けていた彼らは、
「ウィルス! そっちは!?」
『あと3人だ。遅滞戦闘続けても、持って5分ってとこか』
「私達が行くまで、なんとか耐えられる!?」
『……まぁ、出来る限りはやってみるよ』
通信相手のウィルスという青年は、自分と同年代のセルウィーである。
2年ほど会っていなかったが、先日の増援部隊に編入されていたのは行幸であった。それまでの増援は増援とは名ばかりの
(あの転移門から、全部狂ったのよ……!)
足裏に取り付けられた特殊なボールによって、ファルケは縦横無尽に戦場を走り回る。
噴射孔を持つグレムリンですら容易には捉えられないほどの急加速と急旋回を行うため、ブーツの底面には平地を超高速で動くためだけのボールタイヤが取り付けられている。
人型駆動鎧において一般的に装着されるものでなく、装着する人を選ぶ特殊な推進装置だ。
(あれで、使える子を失った。正直、少し後ろの世代よりあの世代の子の方が強いのよね)
ファルケが浮かべるのは、若年層――それもほとんど徴兵されたてくらいの年齢の子供達だ。
その世代の子供はⅢ型ファティマによって死兵とされるが、時折異常な能力を持った子供が現れる。それは、死に抗う人類が覚醒した末生まれる能力だとファルケは考えていた。
どれだけ特異な能力を持っていようが大多数は戦場で命を落とすが、それでも生き残った数人は、後に一騎当千の実力者となることが多い。
そんな子供達を、上官の判断で失ったのだ。あれは痛すぎた。高級装備に身を包むノービスなんかよりそっちに残って欲しかった。
(まぁあのクソ男も死んだけど、次に来たのもまた――うぅん、そんなことより現状の打開策を考えないとね)
この遠征の目的は、以前発見された大規模製造工場の破壊工作であったが、今は違う。死ぬたび入れ替わる上官が立案する作戦を本部が承認すれば、それが次の作戦目標となるからだ。
最後に死んだ上官が決めたのは、1級遺物の確保だったか。遺物発掘用の装備など持っていないセルウィーがいくら集まっても穴掘りくらいしか出来ず、度々遭遇するグレムリンによって部隊は幾度も壊滅状態となり、増援が来てはまた壊滅してを半年ほど繰り返している。
今この戦場において指揮能力を持つのは、ファルケと、同期のウィルスの二人くらいだ。
しかし二人は突発的な戦闘を繰り返しているうちに、随分離されてしまった。ファルケの端末の観測範囲外に居るようで、詳しい場所は分からない。
「アンナ! 北西から20体くらい来てるわ!」
『えぇえええ!? いくらなんでも弾足りないですよぉぉ!!』
甲高い声で叫ばれると、流石にくらっとするのでやめて欲しい。何度言っても聞かれないので、もう指摘もやめてしまった。
今呼びかけたアンナという少女は、徴兵4回目の18歳だ。その弱気な態度とは裏腹に、グレムリンを上回る超重装甲の駆動鎧に身を包む、歴戦の砲兵である。
視界の端に居たアンナが、背中から生えた2本のアームで超重量級の榴弾を複数放った。
放物線を描いて飛んだ榴弾はこちらに向けて突っ込んできていたグレムリンの集団を蹴散らすが、当然大まかな狙いしか定めておらず撃ち漏らしも多い。
それに対応するのは、彼女の背後で散弾銃を構えたセルウィーだ。ライフル弾程度なら装甲で受けられるアンナを盾にし、至近距離まで接近したグレムリンに致命傷を与えていく。
(こっちで残ってるのは7人。盾持ちの
7人残っているファルケ側は、まだグレムリンより火力が高く正面切って戦うことが出来る。
だがウィルス側には3人だ。遅滞戦闘をしていようが、こちらに向かってくるグレムリンの半分でもあちらに行ってしまえば、あっという間に壊滅するだろう。
出来るだけ派手に戦っているファルケ達だが、それによって弾丸が底を突き出していた。
『今ので榴弾切れましたぁ! 徹甲弾に切り替えますぅうう!』
アンナからの通信が飛ぶ。彼女は両手に大盾を持ち、背中から生えた万能アームによるありとあらゆる銃器が扱える特殊な砲兵だ。
弾切れを起こすたび死んでいった仲間の武器を回収し戦っていたのだが、砲兵の主力である榴弾を失ってしまうと、制圧力は激減する。
「ポイントD25方面に向かって撤退するわ!」
『に、25ですかぁ!? そっちって――』
「製造工場があるけど、以前の調査データが正しければ大型は製造されてないはずよ! このままここで戦闘を続けるより、多少はマシかもね……っ!」
ファルケよりアンナの脅威度が高いと判断したのか、ファルケの横を通り過ぎようとしたグレムリンに左手の回転式拳銃でマグナム弾を叩き込み黙らせると、ファルケは地形を頭の中に思い浮かべる。
ウィルスが遅滞戦闘をしているのも同じ方角のはずだ。ならばどこかで回収することが出来れば、多少は戦力の増強も出来る。
「死なないでよ、ウィルス……っ!」
増援部隊が来ると報告を受け、丸3日が経過している。
こちらに辿り着く前に全滅したか、それとも計画が頓挫したのを教えられていないか、そのどちらかだとファルケは考えていた。
――そう、今まさにこちらに向かっている部隊の存在など、想定していなかったのである。
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