ビデオテープの思い出

そのリビングにあったビデオテープ、その上にはお父様の字で「見てくれ」と書かれたメモが置かれていました。


なにかのメッセージでも入っているのでしょうか。

他にする事もないのでそのビデオテープを再生します。



テレビには美しい女性が映っていました。

とても明るくて快活でとても魅力的な人です。

お腹がとても膨らんでいるので、妊婦さんなんでしょうか。


『えーと、写ってる?』

テレビの向こうの女性は手を振ります。私もそれに釣られて手を振り返しました。


『え〜と、そこにいるのは私の娘?息子?どっちなのかなぁ』

思い出しました。この人は私のお母さんです。写真で何度も見たことがあります。

なんでお母さんのビデオテープが……



『え?娘?そっか〜娘なのか』

お母さんがカメラを持っている誰かに話しかけています。きっとお父様ですね。


『えーと、コホン。貴方がこのビデオを見ている時には、おそらく私はもうこの世にいないでしょう』

お母さんが照れくさそうにそう言いました。


『私、体が弱くって、君を産むと死んでしまうかもだってさ。でも、もちろん死なない可能性もあるんだよ?でも念の為に遺書を残した方がいいってお医者様が言うので、今撮ってます!』

お母さんは朗らかにそう言い放ちました。


『えっと、アハハ、何を伝えたらいいのかな。ほら、アナタは何かない?……なんで泣いてるの』


『……えーと、君のお父さんは頼りにならないので頑張って私が伝えます』



『死にたくないって言えば嘘になっちゃうかな……でもね、それ以上に会いたいの』


『私もお母さんになっちゃったんだね。君がお腹を蹴る度にどうしても愛おしくなる』


『君は私に似てはっちゃけた子になるのかな、それともお父さんに似て賢い子になるのかな。君はどんな顔をしてるのかな?今は幸せ?』


『でも、元気ならなんでいいです!健やかに生きてください!元気で優しく……』

お母さんの声が涙声に代わり、徐々に詰まって行きます。


『……』


『君はどんな姿なのかな、見てみたいね。私はきっと成長した貴方の姿を見れないけど……』


『本当に愛してる……』


『……私が死んだってずっと君の傍にいるんだよ。絶対に嘘じゃない。本当のことだよ』


『だってこんなに将来が気になるんだもの、お化けになったって絶対に見守っているよ』


『……君の顔を少しでいいから見てみたい』



『……ごめんね。湿っぽくなっちゃったね』


『泣いちゃってごめんね……ちょっと、撮りなおそう?もっと明るい感じのビデオを送ろうよ』

お母さんがそう言い終わるとカメラが揺れました。そして、ガシャンという音がして地面が映し出されます、どうやら落ちたようです。


『アナタ……それ……変な顔……』


『すまない……』

カメラに一瞬だけお父様が移りました。こんなに泣いている姿は初めてです。お父様も泣くことがあるんですね。


そしてブツンとビデオは終わりました。


少し放心してしまいます。


「これが私のお母さんなんですね」

そんな言葉がこぼれ落ちました。



そして私がビデオテープを取り出そうとすると、テレビがもう一度映りました。



『テイク2〜!』

そういって目元が赤く晴れたお母さんが映ります。


『君に伝えたい事は沢山あるけど、長々と喋るとまた泣いてしまうので簡単に言います!』


『長生きしてね!』


『みんな君を愛してるんだよ!』


『以上、お星様に……なっちゃったお母さんから……でした……!』


『……幸せに』


そう言ってテレビが真っ黒に変わりました。



涙が溢れて止まりません。拭っても拭っても手からこぼれ落ちてしまいます。


私、会いたい。お母さんに会いたい。

お父さんにも。


なんで私より先に死んじゃったの。


なんで会えないの。


私をひとりぼっちにしないでよ。


苦しいよ。辛いよ。




『テイク3だ』

放心していると再びテレビにお父様の姿が映りました。

まだ続きがあったんですね。どれだけのメッセージがあるんでしょうか。

でも、この映像に少し違和感が……


『この映像を見ているという事はきっと私は既にこの世にいないのだろうな』


違和感の正体に気が付きました。この映像は過去のものでは無く最近撮られたものです。お父様の姿が若くないので。


『なぁ元気か?』


はい。元気ですよ。お父様のおかげです。

でも……


『……今は悲しんでもいい。だが私の顔を見て欲しい』


はっとテレビのお父様の顔を見ます。引きつった優しい笑顔。似合わないですね。


『私は笑ってるだろう?これは嬉しいからなんだよ』


『私はこれから死ぬ。だけどこれっぽちも怖くはない。お前の元気な笑顔を思い出すだけで幸せが溢れてくる』


『本当なんだぞ?』

そう言うとお父様がより一層笑顔になりました。


『……そして、そうだな。今までキツく当たって申し訳なかった』


『……本当に申し訳ない』

そう言うとお父様の表情が崩れはじめます。


『本当は……ダメだと分かっていたが……本当に本当にお前を愛していたんだ』


『お前が無邪気に笑うその姿。お前が元気に動き回るその姿。全てが愛おしかった』


『こんなダメな父を許して欲しい』


『……そうだ、我慢する必要はもうないのだな』


『伝えよう……これは本当の気持ちだ……』


『お前の事は大大大好きだ!憎めるはずもないだろう!大切なわが子を!』


『お前にはずっと笑っていて欲しい!ずっと幸せでいて欲しい!ずっと元気でいて欲しい!』


『お前を悲しませるものがあればぶん殴ってやりたい!お前がやりたいものがあれば応援してやりたい!』


『そして私の分も、お前の母さんの分も生きてて欲しい!』


『生きて、生きて、そして幸せになって欲しい』


『ずっと、ずっとそう思っていた!そして今それがやっと言えた……』


『こんな父で申し訳ない』


『……このビデオレターはお前への応援だ』


『きっと今は辛いのかもしれない。悲しいのかもしれない。だけど前向いて生きて欲しい』


『お前は1人ぼっちじゃない』


『父さんも母さんも近くで見守ってる』


『それにアイツだっている。私の一番の”親友”だ。アイツはきっと文句言いながらもお前を助けてくれるだろう』


『じゃあな、頑張って生きろよ』


『愛しているよ』

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