第25話

 映画館の後に向かった屋内遊園地を楽しむこと、およそ3時間。

 休憩がてら軽食は済ませたのだが、流石に3時間遊びっぱなしだと疲れてくる。こちとら万年帰宅部男子だ。

 カズの散歩が日課に入っている以上、毎日外を結構長時間歩いてはいるのだが――、運動というより老人が健康のため歩いてるレベルである。


 館内のカフェに入り、ようやっと腰を落ち着けた俺は、まず聞いた。


「一応聞いておくが、この後の予定は?」

「内緒っ!」

「これ以上体力使うのは無理だぞ……?」

「あっ、そこは大丈夫! こっからはのんびりお買い物コースだし」

「信じるからな……」


 遊園地なんて、小学校の遠足で行ったのが最後だ。中学3年の修学旅行は気まずすぎてサボった。

 そんな俺にとって、最新の屋内遊園地は案外楽しめるもので、子供向けと侮るなかれ、VRゴーグルを装着して乗るアトラクションなんてそこらのゲーセンにもない本格的なもので、ジェットコースターとか楽しすぎて5回くらい乗った。

 本物の遊園地に比べたら体力は使ってないと思うが、体力無尽蔵化ってくらいあっちもこっちも乗って全制覇を狙うひなたに付き合ってると、流石に体力は限界だ。


 クリームソーダを一気に飲み干し、ほとんど氷ってくらいの割合の水を飲みながら、ひなたが買ってきた謎に奇抜な色をしたパンのような洋菓子のような――、何かを二人でつっつきながらのんびりしていること、30分くらい。

 流石に水飲みすぎてトイレに行って戻ってくると――、一人テーブルに残ったひなたの周りに、見慣れない数人の男の姿があった。


「お待たせ、知り合いか?」

「うぅん、知らない人」

「そうか」


 それだけ聞くと、遠慮なく椅子に座る。

 ――男たちは俺を見て溜息を吐くが、二人は去ろうと背を向けたのに、一人が「あれ」と声を漏らした。


「お前、……柳田じゃねえの」

「ん?」


 声を掛けてきた男の方を見て、――はて、と首を傾げる。

 見覚えはない。つっても他人の顔をそこまで覚えられない俺は、こいつが今年クラスメイトだとしても断定できない自信はあるが。


「あれ、そーまくんの知り合い?」

「いや知らん」


 大方俺の噂を聞いた誰かか――、無視していようかと思ったら、「やっぱり」と男は告げる。


「篠崎とよく一緒に居たろ」

「ん? ……中学一緒とかか?」

「あぁ。田代だけど、まぁ覚えてないよな」

「……悪いが全く記憶にない」


 顔を見、――やはり分からん。中学って10クラスあったんだよな。つまり3年間で同じクラスになってない生徒は7割くらい居る計算だ。

 中学なんて3年の後半を除いて篠崎たちと一緒に居たことが多かったから、あまり大勢とつるんではいなかった。


 しっかし、ここでも篠崎の名前か。まぁアイツは俺と違って友達沢山居たし誰とでも仲良さそうに話してたもんな。

 ――また嫌悪の目でも向けられるかと思えば、しかし田代の反応は違う。

 友人二人に「ちょっと時間潰してくれ」と伝えると、近くにあった椅子を持ってきてすぐ隣に座る。ひなたの表情も別に嫌がってる感じではないし、まぁ休憩してるだけだし別にいっかと止めないでいると、田代は勝手に話しだす。


「ほら、前に篠崎が自殺したって噂あったろ」

「……あったな」

「でもさー、あれ、結局違ったっぽくて、知ってた?」

「…………そうなのか?」

「俺も詳しくは知らねえけど、小学校の頃から病気だったんだってさ。ほらあいつ、たまに学校休んでたろ」

「そうだっけか?」


 覚えてないな。ずっと同じクラスだったわけでもないから仕方ないんだが。

 学校で会わない間もSNSとかメッセージアプリで話してたからな。クラスが違ってもあんまり気にしてなかったんだ。外で遊ぶよりネット通してゲームすることも多かったしな。


「悪いけど、俺も噂でしか聞いてないからな、信じないでくれてもいいんだが。つーか俺は篠崎と一緒に居た柳田がそれ知らないことに驚いてるよ。嘘だったのかなぁ?」

「…………そうか」

「……んで、俺の用はそんだけなんだが、…………この子は?」

「幼馴染」

「そうか、えっと、お名前は……」

「ナンパはお断りだよ?」

「まだ名前聞いただけなのに!?」

「見て分かんない?」

「…………悪い」


 目を合わせ、数秒――二人の間で何かの合意が取れたようで、田代はあっさり席を立つ。

 「んじゃ、」とよく分からない捨て台詞を吐いた田代は、友達の行った方向へ小走りで向かって行った。


「…………」

「…………」


 して、5分ほど沈黙が訪れる。食べるものはなくなり、水くらいしかテーブルに残ってない状態でこれは若干気まずい。

 スマホを弄れる空気でもないので、大人しくグラスの中の氷をカラカラして時間を潰していると、ひなたがようやく口を開く。


「そーまくん」

「……何かなひなたさん」

「ボクが言いたいこと、分かる?」

「…………悪かった」

「何に謝ってるの?」

「え、いや、…………ひなたを怒らせたこと?」


 心当たりもないので何に謝れば良いかも分からずそう伝えると「……やっぱり」とむすっとした顔で返される。

 おい田代、お前のせいで空気が最悪になったぞ。どうしてくれんだ。なぁ。


「……ま、いっか」

「いいのか」

「よくないけど、良いのっ!」

「そ、そうか……悪――」

「何が悪いのかも分かんないなら謝るのはやめて」

「……すまん」

「言い方変えただけじゃない? ……ま、怒ってる時間も勿体ないし、次行くよ次っ!」

「お、おう。次は――」


 無理矢理テンションを上げたひなたが、俺の手を取る。

 ――今日は着いていくしかないので、大人しく引っ張られていくのであった。

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