第26話

「んで、ここか」

「そーまくんも、結構インドア趣味あるでしょ? こういうとこは来ないの?」

「来なかったなぁ。ゲームショップくらいは行ったんだが」


 次にやってきたのは、電車に乗ること30分。電気街の、オタクショップ。

 グッズとかそういうのが沢山あるイメージだったが、実際は本がメインの店のようだ。本といっても同人誌のようなものだけでなく、普通の雑誌の方が多い。

 なるほど意外である。こういう店には何となくエロ本ばかりがあると思ってたのだが、別にそういうわけではないようだ。


 そこで何冊か本を買ったひなたはほくほく顔で、次の店へ。


「……えぇと、ひなたさん」

「なに?」

「この店、俺が入っても良いのか……?」

「大丈夫大丈夫」


 雑居ビルの中。やってきたのは、いかにもアングラな店構えをしたコスプレショップ。こんなところに男子高校生が入るのはまずいんじゃ――、そう思ったが、手を引くひなたに従って店内へ入る。

 ――と、意外なことに店内には男性客の姿もあった。


「普通でしょ?」

「まぁ、……そうかな」


 普通かはよく分からんが、まぁ、確かにあまり場違いな感じはない。

 コスプレ衣装やウィッグを吟味する男性が目に付いたが、いかにも普通のサラリーマンといった感じで、ひなたの方を一瞥したが興味なさそうにすぐに視線を逸らす。


「こういうとこで買ってるのか?」

「んー、まぁそういうこともあるけど、ジャンルによっては作らないといけないからね」

「作る!? 服をか!?」

「うん、結構自作してる人も多いよ。ボクもたまに作ってるし……、んでも今回のジャンルはこういうとこでも売ってそうだから――、あぁあったあった」


 普通の服屋とはだいぶ違った陳列をされているが、ハンガーラックに掛けられた服の中から目的のものを見つけたのか引っこ抜く。なんだろう、チアガールっぽい。よく分からんが、少なくとも俺が知ってる漫画やアニメではなさそうだ。


 慣れた様子でその服をレジのところに持っていったひなたがレジのお姉さんと仲良さそうに談笑しているのを遠目に見守っていると、背中をチョンチョン突かれたので振り返る。

 ――エプロンを付けた、身長は140cm台であろうかなり小柄な女性が、俺の後ろに立っていた。見たところ店員である。

 邪魔だったかなと道を開けたが別に通るつもりはなさそうで、俺の顔をじっと見つめてくる。


「あなた、ウワサのそーまくん?」

「えっ、あ、はい」


 あれ、俺、店入ってから名前呼ばれたっけ? つーか噂って?


「へぇー…………」

「……え、あの、なんですか」

「いや別にー」

「別にって……」


 本当に無表情で、何を考えてるのかさっぱり分からない様子で、俺のことをじっと、じーーーーっと見つめてくる小動物のような女性。

 ちっさいけど、たぶん大人だ。身長は小学生くらいなんだけど。


「あっミナさん何してんですか!? ナンパ駄目ですよ!?」


 買い物を終えたひなたが慌てて飛び込んできて、俺と女性の隙間に割り込むようにしてガードしてくる。ナンパって言った?


「してなーいよー」

「ホントですか!? ねぇそーまくん大丈夫!?」

「大丈夫だけど……、なんだ知り合いか」

「コス友ー」

 いえーい、と無表情のままピースサインを向けてくる。

「ですっ!」

「……なるほど」


 そういえばコスプレの服とか売ってる店だしな。コスプレに興味ない人が働いてるわけないか。……そうか、皆するんだな、コスプレ。そういうの生で見たことないから未だにどういう世界なのかもよく分かってないんだが。


「あの、ちょっと伺いたいんですが」


 さっきまでレジに居た背の高い――隣に立つと俺より大きいので身長175cm以上はありそうだ――女性が近づいてきたので、とりあえずそちらを向いて聞く。


「ん?」

「こいつ、日本来たばっかなのに、もう結構友達出来てんですか。その、コスプレの」

「あっ、うん。ちゃん言ってないの?」

「言ってないですけどぉ……」


 若干言いづらそうにひなたが返すが、はて、と首を傾げる。

 俺、ひなたの交友関係全然知らないんだよな。友達が沢山いるのは、まぁ、学校の様子からして納得出来るんだが、言うて日本来て半年くらいしか経ってないわけだし。


「じゃ、私の口からは言えないかなー」

「……そですか」

「そこで聞かないんだ」

「え、いやだって、たぶんひなたなら話したくなったら話してくれると思うんで」


 素直に答えると、「信頼されてんねー」と左右から言われて照れるひなた。ちょっと不思議な感じだな。学校に居る時はクラスの中心人物っぽいのに、こうして見ると妹分な感じだ。まぁ確かに昔から妹気質ではあったと思うけど。


「ひなちゃん、結構めんどいでしょ」「割と重いよねー」


 そう言われて顔真っ赤にして「そんなことないよね!?」と焦るひなたを見て、思わず苦笑が漏れる。ちょっとキャラ違いすぎんだろお前。


「いや、まぁ、そですね。結構めんどいです」

「そうなの!? どのへんが!?」

「……そう言われると具体的にどことは言えんが」


 そういえば機嫌悪いのは電車乗ってる間に収まってたみたいだしな。普段はあんな感じではないから、よほど怒らせてしまったのだろう。

 それはそうとして、まぁ割とめんどくさいタイプだと思う。可愛いから全て許せる範囲ではあるけど、男友達にはしたくないタイプだ。男友達じゃなくて良かったぜ。


「これ以上何が欲しいの……!?」

「そういうとこでしょ」「そういうとこだぞー」

「……そういうとこだな」


 本人は無自覚っぽいのがなぁ。

 可愛くて優しくて、あとおっぱいが大きい。カタログスペックは完璧なのに、どこかちょっとズレてるんだ。これを『重い』って言うんだろうな。


「もういいしっ、そーまくん、次のお店行くよ!」

「あ、あぁ……」


 むすっとした顔になったひなたは、俺の手を引いて店を出た。「ありざしたー」なんて背中に聞こえて、まぁこれも普段通りなんだろうな、と普段見ない一面を見れて、少しだけ嬉しくなった。

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