第二章 公爵様からの果たし状
2-1
社交シーズンを終えた翌日。
私は自室で、うきうきしながら鏡の前に立っていた。
「やっぱりスラックスは最高だよな」
ボロを出すことなくパーティーを終えることができたので、クリスタ姉様が約束通りスラックスをプレゼントしてくれた。
今後もパーティーと来客がある時には必ずドレスを着用することを約束した上で、家でゆっくり過ごす分には穿いて構わないことになった。
「パーティーか……あれで終わりじゃねぇんだよな」
はぁっとため息を
社交界は自分の
(楽しかったのは、王家主催のパーティーのご
鏡の中にいるスラックスを着用した自分を見て、本当の自分はこっちだと感じてしまった。
(着るものや行動を制限される自由のない貴族より……何にも
の性に合う)
ここまで
(私は……レリオーズ
ドレスを着ることもなく、お
家を出るだなんて両親が聞いたら
(けどな……家を出るにしても、どうすればいいんだ?)
「いかがですかお
「
「それはよかったですね。よくお似合いです」
専属侍女の中でも最年長のドーラは、私が五歳の
い付き合いになる。
「お嬢様。
「手紙?」
私に文通する相手などいないので、心当たりはない。
「
「あぁ!」
そう言われて思い出したのは、令嬢達との会話だった。
(そういえば、今度一緒に乗馬しましょうってパーティーで
てっきり口約束だけで、実現しないと思っていた。
(なになに……〝アンジェリカ・レリオーズ様。先日のパーティーでお会いしたあの時が、忘れられない時間になりました。またお会いしたいと思っております。よろしければ○日○時に王都の
パーティーやお茶会の招待状とはかけ
(もしかしていたずらか? 一体
便箋の最後の行に記された名前を見て、私は目を疑った。
(ギデオン・アーヴィング!?)
それは先日のガン飛ばし
(な、な、なんで公爵様から手紙がきたんだ……!? もしかして、本当にあの
けで、
睨み返してしまったのが失敗だったかと思いながら、もう一度文面を読み返した。
時間と場所の指定。思い当たるものは一つしかなかった。
(これ、公爵様からの果たし状ってことだよな……!?)
やはり睨み返してしまったばかりに、公爵様は私が喧嘩を買ったと判断したのだろう。喧嘩は買わないと、最終日は意識していたというのに、社交界デビューでの一回が公爵様を
送り主が
(……待てよ? もし仮にこの先平民として過ごすとして、貴族に……それも公爵様に目を付けられてるって、だいぶまずくないか!?)
現状が整理できないまま、私の中では不安と
(あああ! どうしたらいいかわからねぇけど、
以上、相手の腹はよくわかんないけど、果たし状を送って来たってことは、公爵様は本気だ。こうなったら、正々堂々受けて立ってやる!!)
ぐっと手紙を持つ手に力が入ると、様子を
「お嬢様、お返事はどうなさいますか?」
「するから準備してくれ!」
「わかりました。それでは書くものを持ってまいります」
気合いの入った声で返答すると、なぜかドーラは嬉しそうに
(この話、口が
問題を起こしたことがクリスタ姉様に伝われば、このスラックスは
(家を出ようとか言ってたけど、あれは
レリオーズ侯爵家に自分が買った喧嘩を残したまま、去ることはできない。そう判断すると、デスクの前に移動して座った。
どんな果たし合いでも絶対に負けてはいけない。動きをシミュレーションしていると、ドーラが筆とインクを手に戻ってきた。
「こちらが便箋です。それと――」
「ありがとう」
便箋を受け取ると、
(やっぱりここは、受けて立つ! がいいよな)
余分な言葉は必要ないだろうと思っていると、ドーラがそっと本を差し出した。
「……なんだこれ」
「招待状のお返事の書き方です。
「ね、姉様に」
バッと顔を上げれば、ドーラはゆっくりと頷いた。
「はい。伝言を預かっております。〝アンジェ、お返事もお淑やかによ?〞とのことです」
ドーラから聞いた姉様の言葉に、ごくりと
そして再び、返事を書いていた便箋に視線を向ける。
(……うん、これは
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