第一章 社交界デビューでは舐められるな
1-1
どうして
今回は、十八歳の貴族子女が集まり、社交界デビューを果たすパーティーだ。もちろん、参加者はそれだけではなく、国中の貴族が集まっている。
「今日はなかったけれど、アンジェにはエスコートの練習もさせないとよね……」
まだ何かあるんですか姉様。もう私は十分ですよ。
そう面と向かって言えたらどんなに良かったことか。
クリスタ姉様の
(すげぇ……)
(派手なドレスを着ていても……私にはなんだか合わねぇ世界だな)
(この
すぐさま目線を向けたのは、料理が並べられた一角。じっくりと観察しながら、料理の種類を
(やっぱり肉料理だ!! いや、さすが王家はわかってんな。最高すぎる。……後で絶対食べるぞ!)
気乗りしない
(
口元を
「アンジェ、顔」
「えっ」
「そんな気の
「す、すみません」
どうやら私は
(肉料理は食べたいけど、
気持ちを
「クリスタ、アンジェ。そろそろ
「わかりましたわ、お父様」
私達を呼びに来た両親と共に、国王陛下に
「アンジェ。失礼のないようにね」
「もちろんです」
さすがの私でも、国王陛下への謁見がいかに重要で、下手をしてはいけないかということくらいわかっている。私が導き出した最適解は、とにかく
(……よかった、無事終わった)
何事もなく謁見を済ませると、各所に挨拶へ向かう両親と別れた。
(よし、ご馳走――)
うきうきで料理の置かれた一角に向かおうとすれば、
「アンジェ、ご挨拶が先よ。社交界デビューしたからには、
「そ、そんな」
(挨拶してる間に目当てのものが無くなったらどうするんです、姉様……!)
てっきり国王陛下への挨拶の後は自由に行動できると思っていたので、期待を裏切られた気分だった。
(まぁでも、姉様が私を一人にするわけないか)
「挨拶が終わったら、軽食を取りましょう」
「本当ですか!」
「えぇ」
一気にやる気が生まれた私は、クリスタ姉様のご友人方に挨拶をするために後をついて行った。
「クリスタル様。お久しぶりですわ」
「クリスタル様、よろしければ今度お茶会にいらしてくださいませ」
おぉ、姉様はこんなにも人気なのか。
初めて見るクリスタ姉様の社交姿に
それにしても、一気に話しかけるのはやめた方が
つしかないのだから。
「
「は、はい!」
心配はいらなかったようで、クリスタ姉様は一人一人
「皆様、よろしければ私の妹を
「もちろんですわ」
「クリスタル様の妹君……」
ひそひそと聞こえる声が気になるものの、クリスタ姉様に視線を向けられた私は頑張って貴族らしい
「
クリスタ姉様から教わった挨拶とカーテシーを済ませると、元の体勢に
には
「まぁ、とっても
「クリスタル様にお顔はそっくりね。……他は
「ずっと引きこもっていたみたいだし、
あれで聞こえていないつもりなのだろうか。本人を目の前にしてこそこそと話す姿は気分が悪い。
私の引きこもりはある意味事実だ。
「皆様、妹をよろしくお願いします」
「もちろんですわ」
「よろしくお願いいたします」
ひそひそと言っていた令嬢でもクリスタ姉様への敬意はあるようで、にこにこと返してくれた。私への言葉とは
なるほど、これが社交界か。
(……やっぱり好きにはなれそうにないな)
予想通りの感想を
その後も、同い年の令嬢方に挨拶をしたり、たまたま
「よくできているわよ、アンジェ」
「あ、ありがとうございます」
今日の私はどうやら調子がいいようで、まだ一度もボロは出ていない。
「さ、一段落ついたところで、何か少し食べましょうか」
「はい……!!」
(よっしゃ!)
思わずガッツポーズをしそうになったが、
(危ねぇ、ボロが出るところだった)
ふうっと
肉料理が大量に残っていることを確認すると、口元を綻ばせながら取り皿を手に取った。
「アンジェ……ほどほどにね」
「……はい」
クリスタ姉様から
「姉様、食べないんですか」
「……少しだけいただこうかしら」
「その方が良いですよ。せっかくのご馳走がもったいないですから」
「それもそうね」
くすりと笑みをこぼすクリスタ姉様は、料理を
二人とも料理を選び終えたところで、少し
(美味い……! さすが王家の料理だな……!!)
口の中に幸せが広がっていくのがわかった。喜びに包まれていると、
(なんだ、この気配……)
嫌な気配に、食事の手を止めて会場を見回した。
探すべきだ。クリスタ姉様が軽食を口にしている
(あそこか……!)
見つけた
(……なんだあれ。なんであんなガン飛ばしてくるんだ?)
視線の主は、少し離れた場所からこっちを思い切り
疑ってしまうくらい強い視線だったけれど、周囲をもう一度確認しても私とクリスタ姉様以外の人物はいなかった。
(姉様は下に見られるなって言ってた。……ガン飛ばされたら、睨み返すのは基本だろ。ここで目を
私は負けるかという気持ちで、思い切り睨み返した。
相手はいかにもガタイの良い男性で、圧のある
(もしかして私のこと、社交界初心者感丸出しの
「何してるの、アンジェリカ」
「な、何もしてません」
クリスタ姉様の声でハッと我に返ると、私は
(まずい、クリスタ姉様が私を
隣にいたのだから、睨んでいるのも絶対にバレた。そうわかっていても、ごまかしてしまう。
「そうかしら? 私にはアンジェリカが誰かを睨んでいるように見えたけど」
丁寧な口調だが、
「あれは誰かじゃなくて――」
そこに睨んできたはずの男は立っておらず、周囲を見回しても見つからなかった。
「……いない。姉様、確かにあそこに人がいたんです」
「そう。後でしっかり、話を聞かせてもらいましょうかね」
(あ、終わった)
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