第14話 悪霊に人権はない
「田中くん、心配かけてごめんね。私はこの通り
現実世界の彼女は本当にノーダメージだった。
全身はどこも
「さてと――」
『ウ……』
幽子が幽霊へと向き直る。
幽霊はビクンと
『モ、モウホントウニデテイク! ダレニモメイワクカケズニヒッソリト……』
「その
通じるわけがない。
一度もらったチャンスを、こいつは
これからどんなことをされようと、
「私さ、ラノベ好きなんだよね。
「
「田中くん、それは
と〇もメ〇ンもメ〇トも普通に行くわよ。なんならカードも持ってる――と幽子。
「うちのお父さんもお母さんも好きでさ、実家の
つかつかとした足取りで、ゆっくりと幽霊の方へと幽子が向かう。
幽霊の全身がさらに震え、歯はガチガチと音を立てている。
「現代
テーブル近くに置いてあった自身のバッグを
幽子は一枚の
「私が
「いや、知らんて」
――俺たち今日会ったばかりだろ。
一郎は心の中でツッコミを入れた。
「勝ちたいけど勝てない。でも勝ちたい。そう思い続けていたある時、あることに気づいたの。『そうだ! 同年代とやって勝てないなら下級生とやればいいんだ!』って」
「きみ最低だな! 下級生とやったらそりゃ勝てるだろ!」
「いいえ、ボコボコにやられたわ。妹たちの世代はどうも天才がいっぱいいる黄金世代だったみたいでね……私みたいな落ちこぼれでは
一郎はこの話を聞いて、
「年下にも負けた私のプライドはズタボロよ。でも勝ちたい。どうしたら気分よく勝てるんだろう? 私みたいな落ちこぼれでも
――いたじゃない、そんな
――どんなことをしても文句を言われない、最高のオモチャが。
「
『ア、アア……アウ、アー……アバババババ…………』
幽子の話の
自分がこれからどうなるか、
「そんな幸せな時間なんだけどさあ、
「居座っていた霊が
「そう! そうなの! 毎日毎日、学校でのストレスやバイト先でのストレス
話を聞いているうちに、一郎はこの幽霊が少しかわいそうになってきた。
一年間も
この幽霊、いったいどんなことをされるのだろう?
「――と、話が
「え……? さすがにそれだけじゃわからないって」
「大丈夫、テレビアニメにもなったし、誰もが知るようなビッグタイトルだから。ヒロイン最強のファンタジー作品よ」
「ああ、アレか」
そこまで言われれば
黎明期、テレビアニメにもなったビッグタイトル、最強ヒロインのファンタジーとくればあれしかない。
「そう、アレ。あのカッコよくてかわいい最強美少女
――加工
幽子がそう口にして札を投げると、幽霊の周りの空間が
中心に向けて
『アガ、アガガガガガ……ナ、ニ、ヲ……?』
「見ての通り、空間を圧縮して加工してるの。私が殴りやすい形にね」
『アア……! セマイ……! クルシイ……! ヤメテ……! モウシナイカラ……!』
「はいはい、そういうのいいから。っていうか、元々逃がすつもりなんてなかったし。後でこっそり
『ヒイイィィィ……』
「私を
幽子が言い終わると同時に幽霊が光った。
光が
「……パンチングマシン?」
「殴りやすい形って言えばやっぱこれでしょ。あ、キッキングマシンもあるわよ」
「本当だ」
パンチングマシンの影に
ミットを使うオーソドックスなやつだが、マシン上部に
液晶部分には先ほどまでここにいた幽霊の顔が
「ゲームセンターにあるのと
パンチングマシンのプレイボタンを幽子が押した。
ミットが起き上がり、おなじみの機械音声が
――ヘイ! 俺にパンチしてみな!
「よーし、いくわよぉ……おりゃー!」
『ヤメテ! ヤメテェェェェェェェッ!』
――ドゴォォォッ!
殴られたミットは何度もバウンドした後、ゆっくりと起き上がる。
「やったぁ! 560P!」
「プロボクサーでも160Pくらいだって聞いたことあるんだけど?」
「普通の人は
――ドゴォォォッ!
「あ、ちょっとミートポイント
「それでも400P近く行くんだ……」
絶対にケンカを売らないようにしよう。
彼女の言う落ちこぼれでこれなのだ。
プロがどれだけ強いか想像することさえできない。
『オゴ……オゴゴゴゴ……』
「あ、でもそこそこ
「いや、俺は……いいよ」
「そう? 絶対に中から出てこないから、
そう言いながら最後の3発目。
今度は1発目以上に
いっそう
「次キック行こう! キック!」
『モ、モウヤメテ……カンベンシテクダサイ……』
「嫌でーす。そう思うなら最初から悪いことなんてしなければよかったのよ。そうなってしまった以上、今のあなたにできることは、
『ギャアアアアアアァァァァァァァァーーーーーッ!』
今度は1500Pか。
キックはパンチの3倍と言われている。
『モウ、コロシテ……コロシテクダサイ…………ハヤク、オネガイ…………』
そんな幽霊の
「あは! あははは! あはははははははははははは!」
ものすごく楽しそうだ。
何も知らない人が見れば、一発で
この笑顔の
「あ、そうだ田中くん。このマンションの幽霊
「ビビって他の霊とか近づかないだろうな……」
関わったら自分が次はそうなるかもしれないのだ。
「まあ、いろいろ言いたいことはあるけど、ありがとう物部。きみのおかげでこれから普通に
「どういたしまして。あー! やっぱりこの
そうか、もうワケあり物件でないのならば、家賃を戻しても問題ないのか。
ここの
彼女は命の恩人だし、それくらいのことは大目に見よう。
彼女の存在に比べれば、120万などたいした金額じゃない。
――これからよろしく、
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